NHK朝ドラ「あんぱん」が好評である。アンパンマンの作者やなせたかしがモデルである。特急アンパンマン列車の行先、高知の出身である。一昨年の朝ドラ「らんまん」も高知が舞台で、牧野富太郎がモデルだった。高知は偉人の宝庫だ。
たつの市新宮町篠首(しのくび)に「顕彰 大上宇一翁 碑」と刻まれた碑がある。
石碑に刻まれた宇一は通称であり、戸籍名は宇市である。昭和29年に新宮町小中学校教職員によって建立された。
碑の奥には「コヤスノキ」という植物がある。近くには「町指定文化財コヤスノキ 大上宇市氏の発見」と記された標柱もある。現在はたつの市の天然記念物となっている。兵庫県南西部と岡山県の東南部にのみ分布するという稀少性が評価されたようだ。
大上宇市は牧野富太郎とコヤスノキの発見などを通じて大変深い交流があった。「らんまん」放映の年には、霞城館・矢野勘治記念館で二人を紹介する企画展が催された。その名もずばり「大上宇市と牧野富太郎」。
コヤスノキは明治33年(1900)に宇市が発見し、牧野富太郎が新種としてPittosporum illicioides Makino(ピトスポルム・イリシオイデス・マキノ)と命名した。宇市の生涯については説明板に教えてもらおう。
明治の博物学者 大上宇市
大上宇市氏は慶応元年五月十七日篠首の此の地に生誕する。
明治七年篠頭小学校に入学するが明治十年退学し、以後独学で漢文・英語・ラテン語を修めこの避地に居ながら東京帝国大学・京都帝国大学の教授や中央学界の学者と交流を持ち明治中期日本の科学の黎明期に大きな功績を印す。
例えば動物学では、乳類・爬虫類・両棲類・魚類・昆虫学等に及び、特に貝類については、和名にオオカミを付したもの学名にハリマ・カシマを付けた氏の新発見にかかるもの二十余種の多きにのぼる。
菌類の新種の発見十余種、タキミシダ等に見られる分布学上の貴重な発見も多く、全国の研究家と標本の交換や同定(鑑定)の依頼も受ける。他に天文、地学、郷土史等の研究も手がける。学歴も師もなく、弟子もなく膨大な著作も刊行されることなく、明治の偉大なる学者はこの地に眠る。
平成四年三月 新宮町教育委員会
「オオカミ」の和名が付された貝類があるというから、「大上」の名字は「おおかみ」と読むのかと思ったら「おおうえ」だった。彼が発見した「オオカミゴマガイ」は、正しい読みが知られるようになって「オオウエゴマガイ」と呼ばれるようになった。
「ハリマ・カシマ」は学名ではなく、タイプ産地(タイプロカリティ)のようだ。標本が採集された場所を示している。漢字では「播磨・香島」で、宇市が活躍していた頃、篠首は香島村の一部だった。
「らんまん」放映の年、姫路科学館でも宇市を偲ぶ展覧会が催された。企画展「はりまの博物学者・大上宇市」である。市内の小学生による自然観察スケッチなど、学校での学習成果も展示された。
熱心に勉学に励み、ひたむきに観察を続けた宇市の姿勢は、子どもたちにとって見習うべきお手本とされたのだろう。新宮町小中学校教職員が顕彰碑を建てた理由もそこにある。
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