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仏像の見分け方はややこしそうだが実はシンプルで、如来、菩薩、明王、天があり、悟りを開いたのが如来で開いていないのが菩薩、明王は大日如来の化身で天は仏教の守護者である。螺髪がついているのが如来で、けっこう飾りが多いのが菩薩だそうだ。
このうち薬師如来は左手に薬壺を持っていらっしゃるからすぐに分かる。苦しみを取り除くオクスリが入っている。右の手のひらをこちらに向けているのは「怖がらなくていいよ」というポーズだという。優しいお医者さまのようだ。なんだか、とてもありがたく思えてきた。さっそくお参りに出かけよう。
やって来たのは、鳥取県八頭郡八頭町上峰寺字村奥と下峰寺字谷内の境のあたりにある「峰寺薬師堂」。町指定文化財（建造物）である。
境内には説明板が三種類ある。このうち、古そうに見えるが簡潔にまとまっているのは、郡家町教育委員会の説明板である。郡家町は平成十七年に合併により八頭町となった。
奈良の法隆寺、三河の鳳莱山薬師寺と共に日本三薬師の一つといわれ、往時は附近山内に七堂伽藍が並びたち、まことに壮麗を極めていたであろうことが想像される。
現在の本堂は、縦九メートル、横八メートルで文久元年（一八六一）建立され、入母屋造り、妻入建築である。本堂には三面に蔀戸（しとみど）を張り、高さ一メートル余の濡縁（ぬれえん）を三方にめぐらしてある。
文化財としての価値は建物にあるのだが、ここはあえて「日本三薬師」に注目したい。本尊はもちろん薬師如来で、日光菩薩と月光菩薩を従える薬師三尊の形式である。優しいお医者さまの隣で微笑む二人の看護婦さんである。この寺は日本三薬師の一つに数えられる「峰寺薬師」で、あの法隆寺と並び称される名刹だという。
試みに、比較的信頼のおけるコトバンクで「日本三薬師」を検索すると、柴折（しばおれ）薬師（高知県大豊町）、日向（ひなた）薬師（神奈川県伊勢原市）、峯（みね）薬師（愛知県新城市）が該当し、医王寺（石川県加賀市）を入れることもあるという。出典は日外アソシエーツ「事典・日本の観光資源」である。ここには法隆寺が出てこない。別の説明板を読んでみよう。
峰寺薬師の由来
真言宗に属し以前は蓬莱山生峰寺（しょうほうじ）と称していた。御本尊は薬師如来で奈良の法隆寺、三河の薬師寺とともに日本三薬師の一つといわれ因幡巡礼第一〇番札所である。本尊は法隆寺の分身如来で行基の作と伝えられる。七堂伽藍がたち並び壮麗をきわめたというが、戦国期永正年間（一五〇四～一五二〇）私都（きさいち）郷内の合戦及び天正年間（一五七三～一五九一）に山中鹿之助に焼き払われ堂宇は灰燼に帰した。
そのとき御本尊は東方の小谷に難を逃れて無事であった。この谷を薬師谷と呼ばれている。その後本堂は文久元年（一八六二）に再建された。現在は大樹寺の管理に属し、例祭日の旧暦六月八日には住職の派遣を仰ぎ多数の信徒が参詣し法要を営んでいる。往時は前夜から遠近の参詣客が集まり露店、見世物などが並び青年男女の踊があり梵鐘の音は終夜鳴り響き賑わった。
本堂は昭和五十一年に郡家町文化財として指定されている。
平成六年三月吉日 高峰会（両峰寺老人会）
もう一つ、平成七年六月に郡家町教委が作成し、現在は八頭町教育委員会の名義に変更された説明板があるので読んでみよう。
寺伝によれば奈良時代の初期、聖武天皇の皇后、光明皇后の御母県犬養橘三千代（あがたいぬがいたちばなのみちよ）の誓願により創建されたと伝えられ、因幡巡礼第一〇番札所であり、又、奈良の法隆寺、三河の蓬来山薬師寺と共に日本三薬師の一つといわれる。
いずれの説明板も「奈良の法隆寺」は共通だが、三河の薬師寺の表記が少々異なっている。「鳳莱」や「蓬来」を手がかりに考えると、愛知県新城市の鳳来寺（ほうらいじ）がこれに該当しそうだ。コトバンクの検索結果に登場した「峯薬師」のことである。
次に法隆寺を調べよう。法隆寺には薬師如来像がいくつもあるが、関係が深そうなのは「峯の薬師」と呼ばれる西円堂の薬師如来像である。さらに言えば、法隆寺西円堂も峰寺薬師と同じく県犬養橘三千代の発願により創建されたという。法隆寺の「峯の薬師」、鳳来寺の「峯薬師」、そしてここ「峰寺薬師」と、「峰」を共有する日本三薬師なのであった。
「日本三薬師」とはいうものの、公正中立な第三者機関が認定するわけでなく、三薬師入りを可とする評価基準もない。自称であれ他称であれ、それらしい説得力があれば世間に定着する。峰寺薬師のご本尊は法隆寺の分身如来だという。しかも、薬師三尊がそろって「怖がらなくていいよ」と私たちを癒してくれるのである。ああ、ありがたや。おん ころころ せんだり まとうぎ そわか。
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