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春の末にぞ有紀は零ける

トルバドゥール(troubadour)というフランス語は吟遊詩人と訳される。12世紀前後に欧州で活躍した宮廷芸術家である。吟遊というから種田山頭火や若山牧水のような酒と旅を愛した詩人かと思ったが、そうでもないらしい。

それでも私はあえて言う。平賀元義こそ岡山を代表する吟遊詩人である。吾妹子(わぎもこ)先生とまで呼ばれた歌人で、万葉風の古めかしい表現が特徴だ。それが時代の思潮に合致して逆に新鮮であり、今なお清新さを失っていない。正岡子規が激賞したのも宜なるかなである。

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津山市大篠(おおささ)の大佐々神社境内に「平賀元義之歌碑」がある。

元義は各地を吟遊しており、土地の美しさをいっそう引き立てる歌を多く残している。この神社は山裾の高い場所に位置するので眺めがよい。神社に参拝した元義は、どのように詠んだのだろうか。

嘉永二年三月十一日勝田郡吉野の里を発して苫東の郡高倉の郷大ささの社にて
神さぶる大ささ山をよじくれば春の末にぞ有紀は零ける
嘉永三年八月大篠の神の社より津山の城を眺めてよめる歌
見渡せば美作くぬち霧はれて津山の城に朝日直刺

一首目は雪を有紀、降るを零ると表現するところが憎い。雪は降りけると普通に書いたらなんでもない歌だが、万葉仮名風にすることで「神さぶる」という神々しい世界が一気に広がる。二首目の「くぬち」はあたり一帯。立ち込めていた霧が晴れわたり、陽に映える津山城が見えたのだろう。

私が訪れた時にはそれこそ霧が視界を遮るばかりであった。富士山や姫路城を眺望できる場所はビュースポットとして紹介され、多くの観光客が訪れている。津山城も天守閣が残っていれば、絶景写真のような元義の歌を実見することができたであろうに。


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