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神は人の敬によって威を増す

神︀者︀依人之敬増威、人者︀依神︀之徳添運。神は人の敬によって威を増し、人は神の徳によって運を添ふ。御成敗式目の第一条には、こんな名言が記されている。神と人の関係を、これほど的確に表現した言葉を私は知らない。本日は備北の神社からのレポートである。

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新見市哲多町田淵に「荒戸神社本殿」がある。下の写真は緑草に覆われた参道である。

県重文に指定されているというが、どこに注目すればよいのだろうか。説明板を読んでみよう。

岡山県指定重要文化財 昭和62年4月3日指定
荒戸神社本殿
本殿は室町時代の建築様式を伝える貴重な建造物で、祭神は大錦積命、天照大神、他に16神がある。創建は、正中元年(1324)荒戸山山頂に建立されたが、嘉吉2年火災により焼失したため、文安元年(1444)現在地に再建された。
本殿の特徴として、入母屋造桧皮葺で、向拝を持たない屋根は全国的にも少ない古い形態で、基壇を作らず石敷とした床下の工法は古式のものである。
荒戸神社 新見市教育委員会

神社本殿の建築様式は流造が最も多い。正面の屋根が長くのびて庇の役割を果たす。荒戸神社は入母屋造で平入だが、庇である向拝を持たない。これは古態を今に伝えているのだという。そういえば、伊勢神宮の神明造は切妻で平入だが、庇は設けられていない。雨除け日除けの利便性を考慮して、庇(向拝)が生まれたのであろう。

ご祭神に注目しよう。大錦積命とはどなたで、何とお読みするのだろうか。錦を綿とすれば「ワタツミ(ワダツミ)」と読むことができよう。この推測が正しければ、海神である。海から遠いこの場所で、なぜ海の神様なのか。不思議に思いながら調べていると、次のような伝承があることが分かった。『日本伝説大系』第十巻山陽に掲載されている。

荒戸山の荒戸神社の神は、蛇を使いとしていた。一人の村人に、「蛇が死んだので、蛇の姿を作って奉納してくれ」と枕神がたつ。そこで笠岡(笠岡市)の鍛冶屋に頼み、かねの蛇を作り奉納する。それ以来、笠岡沖を通る船が顛覆していけない。よく調べてみると、荒戸山の蛇がさわっているという。笠岡から新砥に抗議があり、その結果、神代(阿哲郡神郷町)の鍛冶屋で鎖を作り、蛇をくくることにする。鍛冶屋がかねの蛇をくくりに行くと、鎌首を持ち上げる。村人の加勢を得て、やっと動かないようにくくった。それからは、笠岡沖の船がかやらなくなった。(『中国山地の昔話』)

蛇を使いとする神様をワダツミとするなら、その神威は遥か先の笠岡沖にまで及んだようだ。かねの蛇にそれをくくった鎖。たたら製鉄さかんなりし時代が偲ばれる。篤い信仰が伝説を生み、神威を増して語り伝えられた。新緑の輝く荒戸山でグリーンシャワーを浴びれば、好運に巡り合えるような、そんな気がするのである。


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