歴史上の人物には墓がいくつもある人がいる。実在の人物でありながらかなり伝説化している歌人、和泉式部はその典型例だ。われらがヒーロー平将門公もこれに類する。式部さんほど広くに分布することはないが、将門公が活躍した関東地方にはいくつかある。
伝説だから、ほんまかいなと疑わしいものが多い。本日は将門公の父君の墓だが、やはりほんまかいなとツッコミたくなる。
常総市蔵持に「六所塚」がある。全長７０ｍの前方後円墳で市指定史跡である。
平将門一族を供養する板碑のあった場所については、「平親王将門公一族墳墓之地」で紹介している。六所塚のすぐ近くだ。ここには将門公だけでなく、父良持や兄将弘の板碑があったという。
そして、この前方後円墳が父良持の墳墓だというのである。その東（写真では右方）には将門公の遺骸を埋葬した地があるという。古墳の側に常総市教育委員会の説明板があるので読んでみよう。
六所塚考（前方後円墳）
この一帯に存在する墳墓は古墳時代からの造成で鬼怒川の右岸南に突出した沖積層の台地に構築されたいづれも規模の大きい円墳、前方後円墳などで、その数八十五基が確認され「神子女」或いは「御子埋」古墳群と称されている。なかでも古墳群最大の規模を誇り六所塚と呼ばれるこの前方後円墳は祖先の眠る霊域として最も畏敬されてきた。
この古墳と六所とは何等関りはなかったが、平将門公の父良将公が延喜年間（九百年代）に下総国府（国府台）から北総の国生に国府を移転し、そのときいずれの国府にも大国魂神社が祀られていた状況下、同等の「六所の宮」を祭祀シ他所の国府とまったく同じ立場を確立したものであろう。
この前方後円墳に歓請した「六所の宮」において例年祖先霊を供養祭祀したので、いつとはなしに古墳も「六所塚」と呼ばれるに到ったのである。
六所塚の祭祀は「カブキ祭り」と言われ灯火を消して闇夜に行う奇祭で盛大に行われていたが、享保年間（一七二四～一七二九）における土地改良により祭りのための経費を捻出していた耕作地が不能となり終止された。
また、一説に六所塚は将門公の父良将の墳墓であり、六所の呼称は将門公の父が皇統を引くものである故に、初めは御所墓と言われていたが将門公の陣没（九四〇）と共に逆賊の汚名が高まるにつれて御所塚（五所塚）は、六所塚と改称されたのだともいう、東側の通称六所谷と称される地は将門公陣没後遺骸を引取り埋葬した地であると伝承、かっては数多くの石の卒塔婆が出土している。
時に、鎌倉幕府第五代執権北条時頼公、将門公の供養思うにまかせぬことを聞かれ自ら執奉して勅免を受け、下総守護職千葉氏第十五代胤宗に命じて一大法要を営ませ、建長五年十一月四日（一二五三）建碑されたのもこの地であった（翌六年以後の建碑は二月十四日命日付）
住民、将門公の霊を祀り白膠木（ぬるで）の木で刀、槍などを作り願い事を書いて霊前に奉納、綱火、煙火をあげ念仏衆により将門公を供養した祭りを「キッカブ祭り」と称し時代の変遷と共に形を変えながら明治時代まで続いてきたといわれる。
この一大古墳群も心ない人の盗掘や開発の波にあらわれそのほとんどは消滅した。
郷土の誇る文化財として残存古墳の保存に皆様方の絶大たるご理解を願い六所塚の記とします。
常総市教育委員会
少々漢字に誤りがある。歓請は勧請、執奉は執奏である。そんなことより、注目したいのは「六所塚」の由来だ。良持は皇統に連なるからその墳墓を「御所墓（塚）」と呼んだが、将門の敗死後は朝廷を憚って「六所塚」と呼ぶようになったという。
なるほど分かりやすい。が、実際にはない話だろう。そもそも、平安時代に前方後円墳が造られるわけがない。御所がだめなら六所でいこう、って言葉遊びじゃないんだから。
説明文中に登場する「六所の宮」は、『大辞林』によると「一国内の六つの神社の祭神を，その国の国府あるいはその近くに合祀（ごうし）した神社。六社の宮。東京府中市の大国魂（おおくにたま）神社など。」ということだ。この神社との関連を考える方が自然だ。神社の名前で古墳を呼び習わし、良持に結び付けられたのだろう。
近くに「将門川（しょうもんがわ）」が流れている。一級河川である。
当然、平将門にちなんで命名されたのだろう。村上春樹『平将門伝説ハンドブック』（公孫樹舎）では次のように説明されている。
向石下集落の西側を流れ、館の堀跡ともいう。将門川の名称は、そう古いものではないらしい。
確かに向石下の豊田舘の西側を流れている。将門の名を冠するにふさわしい河だ。今月１２日、鳥取空港が「鳥取砂丘コナン空港」という愛称で呼ばれることが決まった。高知龍馬空港が登場した時にはビックリしたが、ここまでくると何でもありだ。
まさか、将門川も観光客を当て込んでの命名ではあるまいな。いや、私もその名につられてここへ来たのであった。それだけ将門公はネームバリューを有しているのである。
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