ソロキャンプがブームだというが、分かる気がする。大自然の中の夕暮れ、焚き火前のチェアにひとり身を任せれば、何がしかの感慨が湧いてくることだろう。それは、人類が何万年も繰り返してきた営みへの敬意かもしれないし、自然と自分との大きさの対比かもしれない。ソロで過ごすことを通して、自分が自分であることの確からしさをつかもうとしているのだ。
私はキャンプこそしないが、史跡を求めてソロで彷徨している。その日も山城への単独登頂敢行のために車を走らせていると、古墳があることに気付いて立ち寄った。それは「火の釜」と呼ばれる横穴の古墳であった。
岡山県苫田郡鏡野町香々美に「法明寺火の釜古墳」がある。町指定史跡である。
見学しやすいように草が刈られており、地元の方の古墳愛が感じられる。せっかくなので石室内部を見学させていただこう。
岡山県市町村振興協会『岡山県文化財総覧』鏡野町「法明寺火の釜」の項によれば、5~6段に石が積まれた石室で、奥行8.2m、幅約1.6m、玄室の最奥部の高さは2.5mあるという。見事な石室から、香々美川流域を治める有力者だったことが想像できる。説明板を読んでみよう。
ここは法明寺の跡です。(一説には法明寺の尼寺とも言われています。)
ここに横穴石室を有する円墳があります。
今から約一四〇〇年位前のこの地方の有力者の墓です。
陶棺(とうかん)、鉄轡(てつくつわ)、直刀(ちょくとう)、鉄冑(てつかぶと)、須恵器(すえき)などが出土しましたが、現在どこにあるか不明です。
この地方では横穴式石室をもつ古墳を火の釜と呼んでいます。
鏡野町
「火の釜」と呼ばれる古墳はいくつかあり、いずれも横穴式石室を有する。本来は死者を安置する部屋なのだが、巨大な「かまど」のようにも見える。鬼が使ったと見立てて「鬼の釜」という名称の古墳も他地域にはある。
かつてのキャンプでは、石をかまどの形に組んで火を焚いていた。こちらは横穴式石室のミニチュアだ。ソロキャンプブームにあって焚き火台はさらに進化し、軽量でコンパクトに収納できるステンレス製が売れているという。こうなると「かまど」は石室というよりも、むしろ副葬品のイメージに近い。今後「火の釜」の意味は、ますます分からなくなってしまうだろう。