岡山市に池田動物園がある。岡山で池田といえば殿様である。名君として知られる池田光政を3代目として、16代目の当主が開園した個人経営の動物園である。岡山市の子どもなら一度は行ったことのあるプレイスポットである。
品川区東五反田五丁目に「品川区立池田山公園」がある。もうお気付きだろう。先述の動物園と同じ池田だと言いたいのだ。
まずはどのような由来があるのか『しながわの史跡めぐり』(品川区教育委員会)で調べてみよう。
この付近の高台は、江戸時代初期の寛文10年(1670)に、備前国岡山藩、池田家の下屋敷「大崎屋敷」になったため、のちに「池田山」の通称が生まれた。
明治になってからも、多くの部分が池田侯爵邸として使用されていたが、大正時代末期から次第に宅地として開発された。都内でも有数の「高級住宅地」となっている。
現在、品川区立池田山公園となっている場所は、屋敷の奥庭だったといわれる。東京電力社長邸、荏原青果社長邸と変遷したのち品川区が購入、昭和60年(1985)に公園としての整備を終えて開園した。庭園の樹林や池、滝などをそのまま残し、起伏に富んだ地形を生かして高台のあづまやから景色を展望できる。サクラ、アジサイ、ツツジなど、四季おりおりの花に彩られたみどり豊かな公園である。
なるほど、このような角度から俯瞰できる公園はなかなかない。そぞろ歩いてあの橋を渡ってみたいと思わせる趣のある公園だ。
能楽師・梅若実の日記『梅若実日記』(第五巻、八木書店)によると、明治天皇が池田侯爵邸を訪れ能を御見学になったようだ。明治24年11月の部分である。
十六日 晴天。夜ニ入リ九時より雨天。六十三度。荏原郡下大崎村八十二番地池田章政殿邸へ主上行幸。午前十時三十分御出門ニテ御入十一時二十分ナリ。御能御始リ午后一時十分。御済五時。
池田章政は池田家12代目で最後の藩主である。天皇が屋敷の奥庭を御覧になったかは不明だが、勤王の池田家は皇室とのつながりが深い。池田動物園の園長でもある16代目の隆政氏の妻は、昭和天皇の四女の厚子さまである。東京と岡山は意外に近いようだ。