天秤棒で肥担桶(こえたご)を担いだことがある。慣れないとなかなかバランスがとれない。棒がしなって折れやしないかと心配になる。何の木から作られているのか考えたこともなかったが、天秤棒は靭性のあるムクノキで出来ていることが多いらしい。
ムクノキにあやかり、しなっても折れない、そんな人生を歩もうではないか。本日は通りすがりに見つけた巨樹のレポートである。
美作市滝宮(たきみや)に「横川のムクノキ」がある。県の天然記念物である。
カメラをかなり引かないと全景が入らない。今の季節なら葉が生い茂って、ひと回り大きく見えることだろう。説明板を読んでデータを確認しよう。
このムクノキは樹齢約千年、幹の太さは目通り周囲9.4m、樹高25m、枝張りは南北30mあって県下最大のムクノキです。ムクノキは関東以西の本州、四国、九州に分布し、山地にも生えますが、しばしば人家付近や道路わきに植えられます。5月の若葉が伸びる頃、淡緑色の小さな花を付け、秋には直径12mmほどの黒い実を付け、この実は甘くて食べられます。ムクノキは家具等に使われる他、葉は細工物を磨くのに使われます。
環境省・岡山県
樹齢が千年だという。平安中期の生まれだ。今年からさかのぼって千年前の関白は藤原頼通、実権は父の道長が握っていた。『大鏡』の語り手である大宅世継や夏山繁樹もびっくりの長寿である。ちなみに上には上があるもので、津市にある椋本(むくもと)の大椋(おおむく)は国の天然記念物で、樹齢は1500年以上だということだ。
私の近くにムクノキがなかったせいか、椋の実を食べたことがない。小鳥が大好きな甘さで、ムクドリもよく食べるらしい。葉は裏がざらざらしているので、木工芸の研磨剤として使われるという。何から何まで役に立つ長寿の木。「椋」のつく名字が多いのも、強靭なムクノキにあやかろうとしているのかもしれない。
先月14日、この木なんの木を作曲した小林亜星さんが亡くなっていたことが分かった。本日のムクノキのように広い風景に映える巨樹を見ると、あのメロディが脳内に流れる。この一文を亜星さんに捧げ、せめてもの供養としたい。
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