『南総里見八犬伝』を一度読んでみたい。以前に館山市立博物館を訪れた時、八犬伝の錦絵を見てそう思った。美しい錦絵もストーリーを知らなければ心が動かない。決定的な場面に「キタ―(゚∀゚)―!」と言えるだけの素地があれば、どれほど楽しいことか。
江東区平野一丁目に「滝沢馬琴誕生の地」がある。
ここに『南総里見八犬伝』全106冊が積んであった。馬琴の労苦をねぎらってか、花より団子と思ったのか、アイス最中を置いて撮影している。近くの伊勢屋平野店で購入したと思われる。このあたりでは有名な和菓子屋さんである。
角川書店『世界人物逸話大事典』の「曲亭馬琴」の項に次のような話がある。昔は滝沢馬琴と習ったものだが、今は曲亭馬琴というペンネームが一般的になった。
馬琴は下駄商をやめた後、著述で名を挙げ、生計の大部分を原稿料でまかなっていた。天保二年六十五歳頃には、このほか、染筆・謝礼・歳暮・果樹の払下げなどの雑収入があり、悴(せがれ)で医者の宗伯夫婦・孫たちと暮していた。生活はたいへん質素であった。(馬琴日記「天保二年辛卯日記」)
国立国会図書館のウェブサイト内「ディジタル貴重書展」には「南総里見八犬伝 第9輯巻1-6 曲亭馬琴自筆稿本」という超レアな資料が紹介されている。その解題は次のように説明している。
曲亭馬琴(1767-1848 本姓滝沢)の自筆稿本。安房里見家を舞台に八犬士の活躍を綴った読本。全9輯106冊。『八犬伝』の執筆には29年の歳月が費やされた。展示本を執筆した天保5年(67歳)には右眼失明、天保12年以降は嫁お路が代筆した。自筆稿本は当館のほか早稲田大学図書館、都立中央図書館、天理図書館等にも所蔵されている。馬琴は寛政2年(1790)山東京伝に入門、戯作者となる。代表作『八犬伝』のほか多くの読本、合巻、黄表紙などを著した。稿料のみで生計を立てた最初の作家といわれる。なお、当館では馬琴手沢の初印本『南総里見八犬伝』や自筆書簡(40数通)なども所蔵する。
「稿料のみで生計を立てた最初の作家」、そう、職業作家がここに誕生したのである。そして『八犬伝』はプロ作家渾身の大作である。だからこそ、八犬士集結の時、作品中に馬琴自身が登場して読者に熱く語るのであった。
ああ時なるかな、至れるかな、八犬ここに具足して、八行の玉、聯串の功、ヽ大の宿望虚しからぬを、看官もうち微笑るべく、作者は二十余年の腹稿、その機を発く小団円、いはでもしるき一朝の筆ならざるを思ふべし。
今、角川文庫のビギナーズ・クラシックス『南総里見八犬伝』を買って読んでいるところだ。名場面を訳文と原文、そして解説で紹介している。臨場感あふれる筆致はさながらTV時代劇の殺陣だ。日本古典中最長の『八犬伝』の壮大な世界を前にして、新しい山に挑む登山家のように気分が高揚してきた。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。