文部科学省の方の計らいで、国会を見学させてもらったことがある。第一委員会室や食堂などをチラッと見ただけであったが、日本の命運を左右する決定がこの場で為されているのかと思うと、特別な空間のように感じた。
国会は東京にあるものと思ったら、長い歴史の中で一度だけ地方で開かれたことがある。ここでも国運を賭けた決定が行われていた。
広島市中区基町に「臨時帝国議会仮議事堂跡」がある。
なぜ広島で帝国議会が開催されたのか。説明板を読んでみよう。
明治２７年（１８９４）日清戦争のとき、宇品港が兵站基地となった関係もあって、明治天皇は広島に大本営を進められることとなった。
広島城内の第五師団司令部の庁舎を行在所と定めて、同年９月１５日ここにおうつりになった。それにともなって政府の高官や要職が来広した。その後、翌２８年４月戦争が終結して、天皇が帰京されるまでの約７か月余、広島市は事実上日本の首都となった。
この間、同年１０月１８日から７日間の会期で、臨時帝国議会第七議会が広島に召集された。そのため貴族院、衆議院の仮議事堂がこのあたりに仮設された。
明治２７年８月１日、日本は清国に宣戦布告、日清戦争が始まった。９月１３日に宮中の大本営は広島に移り、２日後に明治天皇が入った。同月２２日に広島大本営において議会召集の詔書が公布された。
茲ニ来ル十月十五日ヲ以テ臨時帝國議會ヲ廣嶋ニ召集シ七日ヲ以テ會期ト爲スヘキコトヲ命ス
第７回帝国議会は１０月１５日の議院成立に関する集会に始まり、１８日に開院式、２２日に閉院式が行われた。だから説明板の「１８日から７日間」ではない。
議決された案件のうち最も重要なのが、第二次伊藤博文内閣が提出した「臨時軍事費予算案」である。２０日に衆議院を通過、２１日に貴族院で可決成立した。衆議院の議事速記録を読んでみよう。
臨時軍事費予算案
（町田書記官朗読）
臨時軍事費予算
臨時軍事費ノ歳入歳出ヲ各一億五千万円ト定メ其款項ノ金額ハ別冊歳入歳出予算ニ拠ルヘシ
（別冊）
臨時軍事費予算
歳入
第一款 軍資金 金一億五千万円
第一項 軍資金 金一億五千万円
歳出
第一款 臨時軍事費 金一億五千万円
第一項 臨時軍事費 金一億五千万円
○三崎亀之助君（百七十五番） 今予算委員長ヨリ懇切ナル御報告ガゴザリマシテ本員ハ具ニ承ルコトヲ得マシタ、誠ニ幸福デゴザリマス、就キマシテハ此予算ノ款項等ノ内訳或ハ其他ニ就イテ諸君ノ中ニ御質問ガアルカトモ―アルカハ存ジマセヌガ、何分会期モ切迫シテ居リマスルシ―少ウモゴザイマスルシ、又我々ガ選挙シタ所ノ予算委員諸君ハ十分ナル審査ヲ遂ゲラレ、又十分当局者ニ就イテ質問応答ヲセラレタト云フコトヲ兼々聞イテ居リマスルシ、又今日ノ際ニ当リマシテハ此予算ノ大体ニ附キ又ハ支払ニ就イテハ吾々ハ自ラ見ル所ガアラウト存ジマス、故ニ従来デ見マスレバ色々予算ノタメニ討議ヲ費スコトガアリマスガ、今回ハ此以上ノ一事デ速ニ御決議アランコトヲ希望シマスルデ相成ラウナラバ質問応答ヲ茲ニセズシテ直ニ審議ニ取掛リ、直ニ決ヲ採ラレンコトヲ私ハ希望致シマス
〔「賛成々々」ノ声起ル〕
○藤金作君（百七十七番） 本員モ唯今百七十五番ガ賛成致シタ通リ同感デゴザイマス
○議長（楠本正隆君） 臨時軍事費予算案歳出歳入ヲ併セ一括ニ決議ヲ採リマスル（「ひや／＼」ノ声起ル）該案同意ノ諸君ハ起立
総起立
〔拍手起ル〕
○議長（楠本正隆君） 全会一致―則チ全会一致ヲ以テ該案ノ結了ヲ報ジマスル
ということで、まったく議論がなく衆議院本会議で可決された。もちろん貴族院でもシャンシャンである。三崎亀之助は香川県、藤金作は福岡県から選出された衆院議員である。どちらも立憲自由党に所属している。
自由党に対抗していたのは硬六派と呼ばれる対外強硬論を唱える６つの党派である。戦争前はもめていたのがウソのような一致団結ぶりである。戦争には国民をまとめる作用がある。
これは現代国家でも見られることだ。敵をつくることで身内の団結を高める。「愛国無罪」を叫んでまとまるのは決して健全なことではない。
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