風に誘われて旅に出た。日本三大局地風の一つが吹くというから、怖いもの見たさに四国までやってきた。雲が飛び、木々がゆがんで生えている荒涼な風景に、烈風が吹きすさんでいるのかと思った。ところが、どうだ。このメルヘン的な、あまりにメルヘン的な。
四国中央市土居町畑野に「やまじ風公園」がある。平成6年に整備された。
写真は「風のホルン」というモニュメントである。見えない風を音に変換する面白い装置だ。説明を読んでみよう。
人々と自然の接点のシンボルとなる「風のホルン」は、自然のメロディーを奏でるモニュメントです。ホルンの先は、春先に吹く“やまじ風”の方向にセットされ、取り込まれた風がホルンの中で響鳴し、自然の風がつくり出すメロディーを聞くことが出来ます。
なるほど、風の取入口が山の方を向いている。その山とは法皇山脈である。強そうな名称だが、東側の剣山系、西側の石鎚山系に比べると低いので、四国山地の鞍部(あんぶ)となっているのだ。しかも、北側は急斜面となっている。
南から吹いてきた風は法皇山脈で収束し、急斜面を一気に駆け降りてゆく。おろし風の一つで、阪神タイガースの「六甲おろし」も仲間だ。
やまじ風公園から南方面を望んでみよう。いかにもとんでもない風が吹いてきそうな雲行きだが、この日はたいして風がなかった。
山裾に松山自動車道が見える。反対側にはJR予讃線が通っている。「やまじ風」の影響で速度規制や運休ということもあるようだ。
風のホルンの説明では「春先に吹く」とあるが、秋にも発生の可能性は高い。今月1日16時05分に松山地方気象台が発表した予報は、次のように注意を促している。
低気圧が急速に発達しながら日本海を北東に進み、低気圧からのびる前線が1日夜遅くから2日明け方にかけて、四国地方を通過する見込みです。低気圧や前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、大気の状態が非常に不安定となるでしょう。
愛媛県では、2日明け方にかけて、落雷や竜巻などの激しい突風、急な強い雨のおそれがあります。屋外活動などは注意してください。発達した積乱雲の近づく兆しがある場合には、建物内に移動するなど、安全確保に努めてください。
また、2日にかけて、強風や高波に注意が必要です。東予東部では、やまじ風のおそれがあります。
船舶や交通機関は、強風や高波に注意してください。
「やまじ風」の注意を要する時間帯と予想最大瞬間風速は、1日夜遅くにかけて、25メートル以上
低気圧が日本海を通過する際が危ないようだ。平成5年6月2日に発生した「やまじ風」は、飛ばされたコンクリートパネルにより死者を出す惨事を引き起こした。
気圧配置と地形がもたらす、その時その場所だけで発生する局地風。日本三大局地風は三大悪風とも呼ばれるが、「やまじ風」のほかに、岡山県の「広戸風」、山形県の「清川だし」が挙げられている。
迷惑なはずの「やまじ風」を地域の特色と捉え、公園を整備し、風にメルヘンを奏でさせるとは、なかなかポジティブな考え方である。気象台は分かりやすく予報を出して、住民の防災意識を高めている。
自然の風は予知できるが、人生の風は予想もつかない。追い風が吹いているのに気付かないことが多く、時流に乗り遅れている。おまけに、逆風にはめっぽう弱い。風のホルンに負けぬよう口笛でも鳴らせばいいが、そんな余裕はないだろう。向かってくる風に足が進まなくなったら、いさぎよく反転して追い風にして逃げようかと思っている。
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