「降臨」という言葉は古事記か日本書紀に出てくる術語かと思ったら、今では会話で普通に使われている。「なんか降りてきた~」と行動を始める人もいれば、ダイエットの神が降りてくるのを待つ人もいる。
最近では神様が人に降りるかのようだが、もともとは地上に降り立たれたのである。アマテラスは天壌無窮の神勅を発し、ニニギに三種の神器を与えて、日向の高千穂峰に降臨せしめたという。このとき道案内をしたのが地元のサルタヒコであった。有名な天孫降臨の神話である。
本日紹介するのも神の降りた場所だが、降りられたのはなんと、アマテラスご自身であった。さっそくレポートしよう。
鳥取市河原町片山の霊石山(れいせきさん)の中腹に「御子岩(みこいわ)」がある。けっこう巨大な安山岩である。
斜面にあるのに落ちない。もっとも落ちたら大変なことになるから落ちなくていい。霊石山の名前は、この石に由来するのだろうか。注連縄が張られているということは、神様に関係があるということだ。説明板を読んでみよう。
天照大神が行臨の時、道案内の神として猿田彦命が先導し、この岩に「冠(かんむり)」を置かれたので、御冠岩とも云った。猿田彦命は、道祖神であり、この岩はその御神体として、道行く人の道標であった。
古歌に、「因幡なる神の御子岩しるしあらば、過ぎ行く秋の道しるべせよ」とある。
河原町観光協会
御子岩は、アマテラスが冠を置いた岩であり、道祖神であるサルタヒコを祀る御神体であり、道行く人にとっては道標となったという。ただ分からないのが「御子」が登場しないことである。御子とは誰のことか。
サルタヒコを祀る神社は各地にあるが、出雲の佐太(さだ)神社もその一つである。この神社は『出雲国風土記』に「佐太御子社」と登場することから、御祭神の佐太大神はサルタヒコであり、佐太御子神ともいう。つまり、ここでの「御子」はサルタヒコのことであろう。
霊石山魅力発見物語事業実行委員会が登山道に設けているイラストマップにも、「御子岩」の分かりやすいで説明があるので紹介しておこう。
たて・よこ共4.8m余りあり、伝説によると天照大神がこの山に降りられたとき、道案内の神として猿田彦命に先導され、この石に「かんむり」を置かれたといい、この命の霊をまつっています。そして、古来より道往く人々の道しるべとなっていました。また頂上にある二つの石を皇居石、夫婦石といい、むかし天照大神が、この山に降りられたゆえに伊勢ヶ平(いせがなる)といいます。
「御子岩」の説明はほぼ一緒だが、「伊勢ヶ平」という新たなスポットが紹介されている。がんばって行ってみよう。
テレビ中継所から森の中をしばらく歩くと「伊勢ヶ平」という緑の別世界が広がっている。草をかき分けながら歩き回っていると、このような石が見つかった。「皇居石」だろうか。
霊石山の魅力は神話だけではない。山陰海岸ジオパークに位置付けられる地学的な価値を有している。山陰海岸ジオパーク推進協議会の説明板から関連部分を抜き書きしよう。
標高333.5mの霊石山は、比較的柔らかく浸食されやすい地層の上に、厚さ30~50mの硬い溶岩が覆っているため、頂部が侵食されにくく、テーブル状の山体(メサ)になっています。
確かに北側から山を眺めると、四国の屋島を思わせるようなテーブル状だ。この山はいつごろできたのだろうか。降臨したアマテラスが「それはずいぶん昔のことよ」と言ったそうだから、太古の出来事なのだろう。
急斜面なのに落ちない御子岩のパワーにあやかろうと、1年間落ちずに飾られた注連縄を封入した「勝守」を受験生が求めているらしい。いいことだ。神話は試験に出題されそうにないが、地学なら受験科目だ。英語の民間試験導入ではごたごたしたものの、落ち着いて頑張ってほしい。アマテラスの光は君にも届いている。