仙人は霞を食らって暮らすだとか、久米仙人は女性の生足に目が眩んで墜落したとか、仙人にはけっこう面白い話が多い。道教を極めた達人で羽化登仙(うかとうせん)などの仙術を操ったといわれるが、本朝の長き歴史にもそれほど登場するわけではない。
高砂市竜山一丁目に「法道仙人空鉢塚」がある。空鉢なら信貴山にも空飛ぶ鉢の伝説がある。
信貴山で鉢を飛ばしたのは命蓮上人だった。では、法道仙人とはどのようなお方なのか。高砂市と市観光協会が設置した説明板を読んでみよう。
法華山一乗寺の開基法道仙人の空鉢伝説にちなんで真浄寺の和城師の主唱で建てられたものである。法道仙人は、インドの霊鷲山にこもって仙術を修行した。その上、仙人は不思議な術を心得ていて、自分は山でお経をあげていながら空の鉢を空中に飛ばしてお布施を受けていたので、みんなは法道仙人と呼び、鉢が飛んで来ると食物や米を入れて帰した。仙人はよく竜山の岩の上に鉢を置いて、沖合を通る船に飛ばして食物を乞うたといわれる。
なお、この空鉢塚は画家曽我蕭白の弟子蕭月の設計によるものである。
加西市にある一乗寺は白雉元年(650)に法道仙人によって開かれたといい、播磨地方には法道仙人ゆかりの寺院が多い。インドの霊鷲山で修業をしたという高僧でありながら、仙人と呼ばれる謎の人物だ。
曽我蕭白には「紙本著色群仙図」(文化庁蔵)など仙人の作品が有名で、高砂にも来遊しており、市内に残された作品が文化財指定されている。弟子の蕭月は今の高砂市今市の出身である。師匠と同じく仙人に関心が高かったとみえる。芸術家が設計したというだけに石の姿も美しい。
「竜山の岩の上に鉢を置いて」とあるが、石の宝殿で知られる生石(おうしこ)神社も空鉢を利用していたらしい。人が動かずに物や金銭だけが動いて取引が成立する。空鉢はまさに現代のネット取引の先駆者であった。
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