キリンとアサヒという大ビール市場の間にあって、なんとか勢力を拡大したいサントリーは、プレミアムビールに活路を見いだした。ザ・プレミアム・モルツは今やヱビスビールを抑えて約6割のシェアに達している。この勢いでビール業界を制覇していくことになるのか、今後の展開に期待したい。
大内氏と尼子氏の二大勢力の間にあって着実に勢力を拡大し、ついには中国地方の覇者となったのが毛利氏である。サントリーは現代の毛利元就になれるのか。
安芸高田市吉田町吉田に「毛利元就公像」がある。昭和57年9月に可部町の栗田義一氏によって製作寄贈された。安芸高田少年自然の家の近くで、かつて町立吉田郷土資料館があった場所である。可部町は鋳物が有名なところだ。
ここは、毛利氏の本拠、郡山城のふもとである。そのまま道を進むと大通院谷川砂防公園に着く。
郡山城を背景に石碑がある。郡山城は平成18年4月6日に財団法人日本城郭協会により「日本100名城」に認定された。広島県からは広島城、福山城とともに選ばれている。題字は毛利氏第72代毛利元栄氏の揮毫である。
元栄氏が第72代というのは天穂日命(あめのほひのみこと)を初代とする数え方である。これによると13代は野見宿祢、38代が大江広元、毛利元就は52代となる。
郡山城は南北朝時代に相模から安芸吉田庄の地頭職として下向した毛利時親の築城と伝えられる。以来、毛利氏の本拠、特に毛利元就の居城として有名である。天正19年(1591)に毛利輝元が広島へ移るまで、中国地方の政治的軍事的中心として栄えた。
尼子氏、ついで大内氏と主君を変え、自立してから中国に覇を唱えた毛利元就は、元亀二年(1571)6月14日、病のため郡山城で亡くなる。享年七十五。
大通院谷に「毛利元就火葬場跡」がある。石碑には「毛利洞春公火葬處」と刻まれている。「洞春」は、元就の法名「洞春寺殿日頼洞春(にちらいとうしゅん)大居士」のことである。
20日、初七日の法会後に、竹原の妙法寺(現在の西方寺の地にあった臨済宗寺院)の住持、嘯岳鼎虎(しょうがくていこ)禅師を導師として荼毘に付され、24日には葬儀が執り行われた。
織田信長は小早川隆景に宛てた書状で、次のように元就の死を悼んでいる。『大日本古文書』家わけ第十一「小早川家文書」二七三織田信長書状である。
元就御逝去、不及是非候、連々申承之條、別而痛入候、委曲輝元へ以使僧令申候、仍御分国弥被任存分之由、可然候、殊讃刕表発向、珍重候、五幾内亦無別條候、於様躰者、柳澤可申候、恐々謹言、
九月十七日 信長(花押)
小早川左衛門佐殿
「是非に及ばず」は、本能寺の変に信長が発した言葉として有名だが、この時代の古文書にはよく登場する。ここでは、「元就殿がお亡くなりになったと聞き、申し上げる言葉もございません。いろいろとお聞き届けくださったりお伺いできたりしましたこと、とりわけ痛み入る次第でございます」ということだろう。
また、聖護院道澄(関白近衛稙家の子、大僧正、准三后)は、元就没後間もなく吉田を訪れ、元就の和歌や連歌の遺作を見て感動し、京に持ち帰って『毛利元就詠草連歌』としてまとめた。その末尾にある奥書で次のように記している。(原漢文)
豈武勇の権威のみならんや、まことに光前絶後の芳名と謂つべきのみ
(元就が有名になったのは、決して武勇だけによるものではない。まことに文武両道に優れた空前絶後の武将と言ってよいだろう。)
まさに、巨星落つ、元就の前に元就なく元就の後に元就なし、である。
安芸高田市吉田町吉田に「毛利元就墓所」がある。墓は大名にありがちな巨石墓ではない。墓標として植えられたのはハリイブキであったが、今は枯れて幹が白く残っている。
ハリイブキは一般的な樹木名としては検索でヒットしないが、ビャクシンではないかと考えられている。隣りのシラカシが墓標の代役となっている。
墓域の手前の石碑には「明治四十一年四月二日以特旨被追陞正一位」と刻まれ、「正一位」が叙位されたことが分かる。同時代人でいえば、信長、秀吉、家康と並ぶ最高の人物評価である。
墓域のある檀の手前に「洞春寺(とうしゅんじ)跡」がある。洞春寺は三回忌の天正元年(1573)に、元就の菩提寺として創建された。開基は毛利輝元、開山は火葬場跡で紹介した嘯岳鼎虎である。
毛利氏にとって大切な洞春寺は、輝元の広島移城に伴い広島へ移転し、防長移封に伴い山口、間もなく萩城下へ移され、明治二年(1869)年に再び山口に移された。今も山口県庁の近くにあって、信仰そして観光のスポットとして知られている。最近は「マル住職」という紀州犬が人気だそうだ。
ネット上では各種の戦国武将ランキングが作成されて盛り上がっている。好きな武将には織田信長、伊達政宗、上杉謙信など、スマートなイメージの大名が挙がっている。しかし、武略と教養ともに優れ、家臣団の心を掴んでいた不世出の英雄元就は、もっと上位に入ってよいと思う。
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