青春は短い。宝石の如くにしてそれを惜しめ。
倉田百三の名句に出会ったのは大学生の頃だった。当時は青春なんて永遠に続くものだと思っていたから、何とも思わなかったが、今なら分かる。あの時代は宝石だったのだと。そして気付いた。名句ではなく警句だったのだと。
養父市(やぶし)大屋町加保(おおやちょうかぼ)に「加保坂(かぼさか)の硬玉(ヒスイ)原石露頭」があり、県の天然記念物に指定されている。
東日本大震災や昨今の御嶽山や口永良部島などの噴火を思い浮かべると、今さらながら「地球は生きている」と実感する。地震や噴火は大きな災害をもたらすが、変化に富んだ非日常的な景観をも作り出してきた。こうした地質活動の痕跡を観光スポットにしようという動きが世界的に広まっている。ジオパークである。
日本では、糸魚川ジオパークや山陰海岸ジオパークが有名だ。その山陰海岸から少し内陸に入った養父市に「加保坂の硬玉(ヒスイ)原石露頭」がある。ジオパークの一部とみなして差支えないだろう。
何も知らなければ通り過ぎてしまう普通の山道だ。露頭のヒスイは、パワーストーンの店に陳列されているような深緑色ではない。どのような価値があって、どのようにして生成したのか。説明板を読んでみよう。
昭和52年3月、道路工事中に、ヒスイ輝石や曹長岩などの成分を含んだ蛇紋岩が発見されました。これが大屋のヒスイです。日本を代表するヒスイの原石として、昭和58年3月29日、兵庫県指定文化財となりました。
この岩石は産出した位置を全く動いていません。蛇紋岩地帯の地層と一体的に存在しており、ヒスイの自然産状を示す日本でただ一つの事例です。
ヒスイ原石の保護と盗難防止、そして見学者の学習のために、保護柵を設置して地層を保護しています。
今から約4億年前、地表から20㎞も内部にある地殻深部の岩脈(三郡変成帯)で、カンラン岩からヒスイ輝石が分離晶出しました。
その後の地殻変動によって地表に隆起し、地層が露出しました。 ヒスイ原石は、大屋以外にも新潟県糸魚川市や鳥取県、長崎県など全国8か所で発見されています。
大屋のヒスイは、色が緑色ではなく白色であるため「白いヒスイ」と呼ぶ人もいます。この場所で地層と一体的に存在することで、地球科学や岩石学の研究に貢献する、極めて貴重な資料となっています。
平成24年8月1日 養父市教育委員会
高校で地学を選択しなかったので、いやそうでなくても、専門的でさっぱり分からない。とりあえず「養父市 蛇紋岩」で検索することにしよう。
すると「蛇紋岩米」にヒットした。岩みたいな米ですか、米のような岩ですか、何ですのん? それはミネラル豊富な蛇紋岩土壌で栽培されたコシヒカリで、地域ブランド「やぶの太鼓判!」13号に指定された逸品であった。幻のお米だそうで購買意欲をそそられるが、当然ながらヒスイ入りではない。
そもそも蛇紋岩は変成岩の一種で、もとはカンラン岩だったようだ。約4億年前に地下20kmでカンラン岩から生まれたのがヒスイ輝石、つまり、この原石なのである。それが地殻変動によって今、眼の前に現れているのだ。
「動かざること山の如し」などと、大地は安定とか堅固さの象徴と思われているが、果たしてそうなのか。私たちが毎日、慣れ親しんでいる光景も、4億年の後には地下20kmに埋もれているかもしれないのだ。
これが地球なのである。ヒスイは高圧でないとできない。しかも高温ではダメで、低温が生成の条件だそうだ。高圧にして低温、そのような場所はどこにでもありはしない。説明板によると、日本の産地として大屋以外に、新潟県糸魚川市、鳥取県、長崎県が挙げられている。
特に糸魚川は有名で、「青海川の硬玉産地及び硬玉岩塊」と「小滝川硬玉産地」はともに国の天然記念物である。鳥取県若桜町角谷産のひすい原石は、鳥取県立博物館に所蔵されている。長崎県長崎市の「戸根渓谷ヒスイ」は市の天然記念物、同市の「三重海岸変成鉱物の産地」は県の天然記念物となっている。
なるほど、これは貴重なものだ。奇跡的にできた輝石であり、まさに奇石である。こんなものが道端に露出していれば、誰かが持って行ってしまうのではないか。
心配無用。檻の中に入っているので、盗まれはしないのだ。しかも「破損禁止」と目立つように示されている。そして、丁寧にも「この岩石にはヒスイ輝石が含まれていますが、宝石的な価値はありません。」と書いてある。
価値ある天然記念物なのに、「宝石的な価値」がないという。なんじゃそりゃ。盗まれないためにウソを書いているのか。それとも、ヒスイなのに、深緑色をしていないからか。
調べてみると、純粋なヒスイは白色で、緑色をしたのはクロムや鉄などの不純物が含まれるそうだ。本当に価値あるものとは、ピュアな成分なのか、レアな色彩なのか。
宝石の価値は人が決める。価値は宝石の中にあるのではなく、人の心の中に潜んでいるといってよい。
では、私の青春はどうなのか。宝石のような価値あることを為したのか。よく覚えていないが、懸命に生きていたようには思う。その懸命さが今、私には宝石の輝きとして映っているのである。
浄慶さま
そうでございましたか。貴重な情報をありがとうございます。米づくりは土づくりと言われるように、土壌の良さはうまい米に欠かせませんね。地域の方々のご尽力に敬意を表します。
投稿情報: 玉山 | 2017/03/20 22:17
蛇紋岩米は無印良品cafe&meal mujiで召し上がれます。是非お試し下さい。
㈲浄慶米穀
投稿情報: 浄慶俊一 | 2017/03/20 18:26