何かする時、それに伴ってどんな音がするか、無意識に予想しているはずだ。砂浜を歩けば、ズッ、ズッ、砂浜を叩くと、バッ、バッ、と聞こえるだろう。ふつう叩かないが…。
ところが、歩くと意外にもクッ、クッ、と高い音がしたり、叩けばバン、バン、と響いたりすると、興が乗って子どものようにはしゃいでしまう。今日は、「残したい“日本の音風景100選”」に選定されている、鳴く砂のお話をしよう。
京丹後市網野町掛津の琴引浜に「細川幽斎歌碑」がある。
幽斎、すなわち細川藤孝は、主君を足利将軍家から信長、秀吉、家康と変え、激動の乱世を見事に渡り歩いた大名にして、古今伝授の伝承者としても知られる超一流の文化人である。丹後田辺城の城主だったから、この浜に遊ぶこともあったろう。歌碑にはどのように刻まれているのだろうか。
根上りの 松に五色の 糸かけ津 琴引き遊ぶ 三津の浦々
幽斎
このあたりの地名を詠み込んだ戯れ歌で、五色浜に琴引浜、それに当地の地名「掛津(かけつ)」などが入っている。
「琴引浜」とは、よい音色がすることから名付けられたものだが、これは石英の摩擦によって生じるものだという。しかも、きれいで乾いた状態でないと鳴かない。
この琴引浜の一部に太鼓浜がある。歌碑の向こう側に広がる浜だ。
写ってはいないが、この日も多くの観光客が砂を鳴かせるのに興じていた。親切なガイドさんが、表面の乾いた部分を集めて音を出すのがコツだと教えてくれた。
太鼓浜は叩くと音が響いて聞こえるが、これは砂の下にある岩盤に空洞があるからだそうだ。この浜で幽斎の歌とともによく紹介されているのが、ガラシャの詠んだ次の歌だ。彼女は幽斎の子、忠興の妻である。
名に高き 太鼓の浜に 鳴神の 遠くも渡る 秋の夕さめ
山陰には地質学的に興味深い場所が多く、ここ琴引浜は「山陰海岸ジオパーク」の一部である。美しい景観に石英の砂、歴史人物とのゆかりと、見る聞く知るの三拍子そろった名勝である。
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