北朝鮮の得意分野に「銅像ビジネス」がある。制作技術の高さは、平壌・万寿台に立つ偉大な方の巨像を見るだけでよく分かる。主な顧客はアフリカ諸国で、セネガルにある「アフリカ・ルネサンスの像」は、高さが約50mあるという。像の巨大さは権威の象徴である。
国威発揚に巨大なモニュメントが建設されたのは、我が国とて例外ではない。本日は「国威発揚」の目的で建設され、後に「国土緑化」に変更となり、これに「震災記憶」が付け加わったモニュメントを紹介しよう
神戸市須磨区一ノ谷町5丁目に「みどりの塔」がある。上部のブロンズ像は地元の作家、新谷英夫の『薫風』である。
昭和29年(1954)4月3日に除幕式があった。塔は白いのになぜ「みどり」なのか。同月6日、天皇皇后両陛下は国土緑化大会植樹祭のため、垂水区の小束山県有林を訪れた。このことを記念するとともに、緑化を推進するシンボルとして「みどり」と名付けられたのだろう。
平成7年(1995)1月17日に「阪神・淡路大震災」が発生した。この揺れで左右両側の地球儀のうち、左側が地面に落下した。
この直径1.2メートル、重さ2.4トンの地球儀を落下させた兵庫県南部地震は、正に「地球」すなわち「わたしたちの世界」を根底から揺り動かした、言語を絶する出来事だったことはまちがいありません。
私もあの揺れを忘れていない。目は覚めたものの、しばらく何をすることもできず、天井を見つめていた。防災のはじめの一歩は、過去の事例に学ぶことだ。2.4トンがいとも簡単に動かされたことに学び、私たちは素早く身を守るべく動かねばならない。
昭和16年(1941)11月10日に、神戸新聞提唱による「紀元二千六百年記念塔」の除幕式が挙行された。高さ52尺有余というから、20mくらいあったのだろう。上部には金鵄が羽ばたいていた。「天壌無窮」「八紘一宇」「億兆一心」の文字がレリーフされていた。同様なモニュメントに、宮崎市の「平和の塔」がある。こちらは今も「八紘一宇」の文字を見ることができる。
右側の地球儀は往時のままに台座の上に鎮座している。気になるのは、中国のあたりに国境らしからぬ線があることだ。上の写真は加工して線を見えやすくしている。どうやらこれは、当時の日本の勢力圏を示すものらしい。当時の生々しさがよく伝わってくる。
聖戦完遂に向けて人心を収攬するために建てた塔は、敗戦により無用の長物となった。国土緑化という国家再建の動きに合わせて、平和を誓う塔としてリニューアルされた。そして今、震災の記憶を人々に伝え、防災意識の高揚に寄与している。日本の現代史が凝縮されているかのようだ。
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