皮膚科には、私もしばしばお世話になるのだが、いつ行っても患者さんは多い。それだけお肌のトラブルは一般的なのだ。かゆくなったり、変なものができたり、人に見られる場所だと本当に困る。
今はステロイド剤とか尿素配合とか、症状に応じた治療法が確立されているが、昔はずいぶんと困ったに違いない。神頼みする気持ちがよく分かる。今日はイボ取りの神様の話である。
徳島県海部郡美波町木岐(きき)に「満石(みついし)大権現」が鎮座する。
美しく整備されており、お参りの人も多いようだ。どのような由来があるのだろうか。石碑を読んでみよう。
満石権現由来
今を去る三百年前此の地の網元橋木屋某が田井の浜沖にて、網を操業中握りこぶし大の同じ小石が三回も違った場処で網に入ったので不思議に思って権現磯に揚げておいたところ、毎夜異様な光を発するので霊感を感じ近くの山に祠を建て、光石権現として祭った。ところがその小石が次第に大きくなるので故事に習って小池を掘り、そのわき水を石に注いで「光石よ地下に向かって大きくなれ」とその名も満石権現と改め今もこの小池の水が「イボ」取り、病気快癒の霊水として信仰を集めている。
平成二年三月建立
同じ小石が三回も網にかかる偶然もすごいが、それ以上に、石が成長したという超常的なエピソードが語られている。この種の伝説は、柳田國男『日本の伝説』の「袂石(たもといし)」で紹介されているように、各地に伝わっている。
中には、珍しい石なので社殿に納めて祀っていると、だんだん成長して社殿を押し破った、という話もある。そうならないよう「地下に向かって大きくなれ」と念じたのは、さすがに頭がいい。
小池の水を容器に汲んで、ふたをせずに神前に供え、イボ取りをお祈りするとよいそうだ。ずいぶん前に、「巨勢金岡の墓」がイボ取りの神様として信仰された例、を紹介したことがある。こちらの場合は、墓石を削りその粉末をいぼに塗ると取れる、ということになっている。
だが、かつてに比べてずいぶんと進歩した現代の医学は、サリチル酸配合の皮膚軟化薬が効果的だ、と明らかにしている。それでも人々が神頼みするのは、それだけ皮膚のトラブルに敏感だからだろう。お肌の健康は、心の健康でもある。
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