滋賀県の草津に「天井川(てんじょうがわ)」というお酒がある。もう少し洒落た名前にならないのかと思ったら、この地を流れる草津川は、天井川として全国的に有名なんだそうだ。地域の特色を表す銘柄だったのだ。ちなみに、このお酒を醸す古川酒造には「宗花(むねはな)」という銘柄もある。濃醇旨口だそうだ。
天井川は周囲よりも川底が高いので地形としては面白いが、大雨などで氾濫を起こしやすい。キレやすい人も迷惑だが、切れやすい川も困りものだ。本日は天井川の下を通過する鉄道を紹介する。
西条市三芳に「大明神川トンネル」がある。JR予讃線のトンネルで、山腹ではなく川底を通過している。
写真では赤矢印が予讃線の松山方面、青矢印は大明神川の流れである。このようなトンネルは全国的にも珍しいそうだ。道路脇に説明板があるので読んでみよう。
川底トンネル
三芳駅は、大正十一年十月一日に開通した。
壬生川駅より三芳駅迄には大明神川が横たわり開通の支障となっていた。鉄道局で種々検討した結果、川の底をトンネルで貫通することになり、工事が進められていった。しかし、雨期となり川水が増水したので、工事中のトンネルが崩れるというハプニングが起こった。天候の関係で工事は難渋をきわめたと言う。しかし、悪条件を克服し、新技術の導入でトンネルの貫通を終え、三芳駅開通となった。この川底トンネルは、日本で二つしかない大変珍しいトンネルである。又、トンネルの延長は六五・五三米、費用は一,五八四万四千円である。この工事を遂行するに当たり、三芳村出身杉広三郎(岡山建設事務所長・当時三芳駅など建設責任者)がおられ、御尽力下されたことを忘れてはならない。
三芳公民館 社会福祉協議会三芳支部
「日本に二つしかない」と聞けば、もう一つが知りたくなる。調べてみると、芦屋市にあるという。さっそく、行ってみよう。
芦屋市月若町と松ノ内町の境に「芦屋川トンネル」がある。JR東海道線のトンネルで、やはり川底を通過している。
こちらは明治七年に開通した。このトンネルから神戸に向かう電車は、もう一つの川底トンネル「住吉川トンネル」を通過する。川底トンネルが三つになってしまった。
では、草津川はどうなのだろうか。ここもJR東海道線が通過しているはずだ。地図で確認すると、現在の草津川には鉄橋が架けられている。しかし、これは放水路として造られた新しい河川で、今は水のない旧河川にトンネルがある。かつては川底トンネルだったのだ。
二つしかないのか三つあるのか、そんなことはどうでもいい。天井川という我が国の特色ある地形に対し、鉄道技師がどう向き合ってきたかを物語るトンネルである。電車はあっという間に通過してしまうが、その快適さこそ鉄道技師が求めていたものなのだ。
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