あけましておめでとうございます。ついに2020年が来ましたね。19が20になるのは、18が19になるのと印象が違います。オリンピックイヤーとばかり話題になっていますが、ちょうど100年前に起きた出来事にも注目してみましょう。
日本史を代表する有名人が42人いる。小学校学習指導要領に例示されている人物だ。外国人が3人いて、うち一人はスペイン人である。その名は聖フランシスコ・ザビエル。公教育に宗教は持ち込めないので、指導要領では「ザビエル」とだけ表記している。
あの有名なザビエル像は、「紙本著色フランシスコ・ザビエル像」という名称で国重文に指定されている。鑑真もペリーも肖像は思い浮かぶが、いちばん親しまれているのはザビエルだろう。西洋で描かれたのかと思ったら、日本人の作品だという。今日はザビエル像の故郷を訪ねることとしよう。
茨木市大字千提寺(せんだいじ)の寺山に「上野マリア墓碑」がある。これはレプリカで、実物は近くのキリシタン遺物史料館に置かれている。
「干」という文字のような十字架は、「二支十字」と呼ばれている。結核予防運動の複十字マークに似ている。十字架の下には「慶長八年 上野マリア 正月十日」と刻まれている。西暦では1603年である。
この墓碑は、山の所有者とキリシタン研究家によって、大正九年(1920)2月17日に発見された。これを契機として、千提寺地区がキリシタンの里であることが明らかになるのである。説明板を読んでみよう。
寺山
大正時代、茨木の山間部に位置する千提寺(せんだいじ)地区の寺山から、十字と「上野マリヤ」銘が刻まれたキリシタン墓碑の世紀の大発見がありました。これをきっかけに、千提寺地区の複数の民家が所蔵していたキリシタン遺物が、次々と世の中に知られることとなりました。
そのなかには、有名な「聖フランシスコ・ザビエル像」(神戸市立博物館所蔵)がありました。その数年後にはさらに北の下音羽(しもおとわ)地区からもキリシタン遺物が発見されます。すべては、この墓碑の発見から茨木のキリシタンの歴史が明るみになったのです。正面にみえるのが、「佐保カララ」銘の墓碑発見地であるクルス山です。
茨木市教育委員会
山の所有者である東藤次郎さんの家には、屋根裏の梁にくくりつけられ「あけずの櫃」と代々伝えられた箱があった。ザビエル像はこの中から見つかった。墓碑発見と同じ年の9月26日のことで、今年2020年は、ザビエル像発見から百年となる。現在所蔵する神戸市立博物館には、専用展示室が新設されたそうだ。
千提寺の茨木市立キリシタン遺物史料館の隣に「北摂キリシタン遺物発見最初の家」がある。つまり東さんのお宅、300年間ザビエル像が眠り100年前に発見された現場である。
史料館は小さいながらも、展示物の希少性や遺物発見の「聖地」という意味合いにより、内外から多くの人が訪れている。私が見学した時にも、外国人のシスターや家族連れなどカトリック信者のご一行と一緒になった。遺物を見たお父さんが子どもに何か話しかけていた。こうして信仰は受け継がれていくのだろう。
再び寺山の説明板のある場所に戻ろう。向かいのクルス山との間に新名神高速道路が通っている。平成29年にできたばかりの美しい道路だ。
寺山から見た「クルス山」である。キリシタンの里らしい名前だ。
事実、キリシタン墓碑が見つかっており、二支十字と「慶長六年 佐保カラヽ 四月一日」が刻まれている。ザビエル来日が1549年、慶長六年は1601年、ザビエルの列聖は1622年である。
あのザビエル像には、ザビエルの名前の頭に「S」が付けられ、聖人であることが示されている。つまりザビエル像は列聖以降に制作されたと考えられるのだ。キリシタン弾圧が厳しさを増すなか、信仰を守り通した人々が存在した貴重な証拠である。このように千提寺地区に深い信仰が根付いたのは、キリシタン大名高山右近の領地であったことが関係しているらしい。領主の本気度が領民に伝わったのである。
ところが、現在の我が国におけるキリスト教徒の割合は1.1%で、意外に少ないことに驚かされる。先日の教皇フランシスコ来日に際して、あれほど盛り上がったにもかかわらず、である。誰もがザビエルの名前と肖像を知っていても、その教えを信じているわけではない。おそらく、クリスマスを楽しむ子どもがサンタさんを好きなのと同じなのだろう。
すべてをキャラ化してしまう日本文化の吸引力は半端でない。まさかと思って調べると、堺観光コンベンション協会に「ザビエコくん」というキャラクターがいた。ご先祖がザビエルだと公言している。すでに棄教したのか、宗教色はまったくない。帽子の葉っぱは太陽電池で、エコなのはいいけど起こした電気はどこで使うのだろうか。
ミーハーを文化の基調とする現代だからこそ、美しいザビエル像を深い信仰とともに守り伝えた日本人がいたことは記憶にとどめておくべきだろう。ザビエル像をよく見ると、口からセリフが発せられている。「SATIS EST DNE(DOMINE) SATIS EST」これは「じゅうぶんです。主よ、じゅうぶんです」という意味である。
足るを知る者は富む。今の我が国に必要なのは、まさにこの考え方ではないか。ザビエル像発見100年を機に、ザビエルの思想にもスポットが当てられたらと願う。そう考えると、エコな生き方が信条のザビエコくんは、聖ザビエルの正統な後継者に思えてくるのである。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。