保守政党自民党内が総裁選で盛り上がっている。世の中、保守主義者を自認する人ばかりではないはずだが、けっこう国民的な関心も高い。そこで提示したいのは「保守とは何か」という問いである。マスメディアが自民党保守派の主張として採り上げるのは「皇位の男系男子継承」だ。これまでの皇統はそう信じられてきたが、それに固守することが、本当に日本を守ることなのか。もっと大切なのは、天皇をいただく日本という国のかたちを大切にすることではないのか。
皇室の存続はDNAではなく、臣民の忠義、今の言葉で言えば国民との信頼関係にかかっている。それは御恩と奉公の関係にも似た社会契約説と言ってもよい。人として信頼できるから忠義を尽くすのである。天皇を自らの権威の源泉として利用しようとするキツネのような輩は、DNAさえ受け継いでいれば誰でもよいかのような主張をしている。幕府を転覆した薩長のようなもので、保守派ではなくお飾り天皇論者と呼ぶべきだろう。
人格者である天皇に対する忠義は保守の主要な要素であり、他にはアジア主義、そして伝統宗教への敬意が挙げられよう。中国や韓国と連帯すべく気脈を通じている政治家はどれくらいいるのか。我が国の安定はアジア主義なくして達成しえないのである。靖国への参拝が保守の象徴のように語られるが、これも違う。靖国への参拝を控えている天皇陛下のお気持ちをどのように考えているのか。英霊は陛下にご参拝いただきたいのではないのか。政教分離の原則から政治で宗教が扱われることが少ないが、我が国の歴史は宗教なくして語りえない。陛下や首相の伊勢神宮参拝もニュースで紹介される。しかし、神仏習合の長い歴史や出家した天皇もいらしたことに留意すべきだろう。封建時代に大名は自らの領地の寺社に土地を寄進し安堵状を発給してきた。地域で大切にされている神仏への敬意である。
本日は延喜式内社という誇るべき歴史に敬意を表して、丹波の神社に参拝したレポートをお届けする。
丹波市柏原町大新屋の新井(にい)神社境内に、ご神木の「三本杉」と県重文の「新井神社本殿」がある。
杉の巨木に梯子が掛けられている。超芸術トマソンに「純粋階段」があるが、似ているように思う。木に登って何をするというのだろうか。答えは説明板に書いてあった。読んでみよう。
欽明朝(六世紀)の創建といわれ「延喜式」に記載されている市内式内社十七社の一つです。
もともとの祭神は天地創造の神、高皇産霊神とされますが、江戸時代の初めに比叡山延暦寺の守護神である「日吉大社」の分霊が祀られました。日吉大社は俗に「山王権現」とも呼ばれ、山王の使者が猿であるところから、本殿(県指定文化財)には中井権次正貞の作による一対の猿の木彫像があります。
また、「境内の御神木三本杉の根もとをまたいで子授けをお願いするとよく聞き入れられる」という信仰から参拝に来る人も多いです。
子授けに関する民俗にはいろいろあるが、「くぐる」とか「またぐ」という行為がご利益につながるようだ。どうやら穴や股がイメージされているらしい。ここでは「三本杉の根もとをまたぐ」とされている。根もととはいえ、ずいぶんな高さがあるから梯子が掛けられたのだろう。
江戸中期建築という文化財の本殿は美しい茅葺だ。三本杉を仰ぎ見て社殿の前に立てば、瞑目して首を垂れるだけでなく、深呼吸もしたくなる。祀られているのはタカミムスビなのか猿を操る山王権現か。いずれにしても多くの人に崇敬されてきた歴史を誇る。その歴史は近代国家の産物である靖国よりも、もっともっと長いのである。
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