説明しがたいことを説明しようとして、鬼の仕業とする例はいくらでもある。突然やってくる自然災害やどこからともなく広がった流行り病。悪さをするのが定番だが、怪力を発揮するのも鬼ならではだ。
総社市奥坂に「鬼の差し上げ岩」がある。この巨岩を組み立てたのが重機でないとすれば、鬼としか考えられないだろう。
ここは吉備史跡県立自然公園の一部である。国立公園はよく耳にするが、県立もあるのだ。岡山県内には国立公園2地域、国定公園1地域、県立自然公園7地域がある。ここは史跡と自然の両方が楽しめる贅沢な公園である。
吉備地方で鬼といえば温羅だ。その居城は以前の記事「百済の王子が棲んだ古代山城」、生贄を茹でた釜は「試論・日本入浴史」で紹介した。そして本日の鬼は、岩を差し上げて何をつくろうとしたのか。説明板を読んでみよう。
鬼の差し上げ岩
この岩窟の天井にあたる岩で、大きさはおおよそ縦15m、横5m、厚さ5m。この地方には、桃太郎噺の源とも言われる「吉備津彦の鬼退治」すなわち「温羅伝承」が広く伝わっており、各地にこの伝承にまつわる地名や場所などが数多くあります。
この岩もこの伝承にまつわるものの一つで、鬼のモデルと言われる温羅が、この巨大な岩を差し上げて岩窟を造り、すみかにしたと伝えられるところから、この名がついたと言われています。岩の裏側の窪みは、差し上げた時に出来たと伝えられ、「鬼の手型」と呼ばれています。
また、この地の岩屋と言う地名も、この岩窟に由来すると言われています。この周囲には、鯉岩・八畳岩・屏風岩など多くの巨岩があります。
総社市
鬼の住処であった。城と釜と岩。なぜこんなに大きく、いったいどんな目的があったのか。不思議なものはすべて鬼に結び付けて語られた。民俗学的な説明は詳しいが、花崗岩の風化など地学的な説明はない。
アジア大陸東縁部で白亜紀後期にマグマの活発な活動があった。この時、地下深くのマグマだまりが冷えてできたのが花崗岩である。そおなるだろう。の後、日本列島形成の過程で地表に押し上げられ、風化によって奇岩となった。おそらく、こんな説明となるだろう。
鬼の差し上げ岩から奥に進むと、様々な形状の岩がある。それが何に見えるかは人間次第。人は見たものを記憶に照会しながら理解しているのだ説明板に記された3つの岩を紹介しよう。
「鯉岩」である。鯉だと思って見れば鯉だが、ガトーショコラだと思えばそう見える。
「八畳岩」である。瀬戸内の八丈岩は「瀬戸内に立つ神の岩」で紹介した。こちらの広い岩は、気候の好い時季なら、お座敷気分に浸ることができるだろう。
「屏風岩」である。不法移民流入に困ったバイデン米大統領が「国境の壁」建設再開を認め、トランプさんは「それ見たことか」と怒っているという。国境の壁は鉄製の柵だが、吉備の壁は頑丈な岩石でできている。
奇岩として知られる巨岩は花崗岩であることが多い。風化しやすい花崗岩が粉々になると真砂土になる。運動場の土として全国民が慣れ親しんできた。地下深くの太古のマグマが、ずいぶん遅れて登場した人類をこれほどまでに楽しませてくれている。これを地球のダイナミクスと呼ばないなら、鬼の仕業に違いない。
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