近江八景をはじめとして,日本各地に八景がある。宋代の瀟湘八景に倣って美しい風景を列挙したものである。臼井八景もその一つだ。
佐倉市臼井田干拓から眺める印旛沼は,臼井八景の第一景「舟戸夜雨」(ふなとやう)である。
舟戸大橋のたもとの辺りだ。舟戸はその名の通り漁師の家が多かった。晴れた日中の風景も良いが,雨の降る夜は格別の風情があったという。
臼井八景は臼井城主の子孫にあたる臼井秀胤(号は信斎)と,円応寺二十四世住職の玄海(号は宋的)とによって元禄十一年(1698)につくられた。利根川図志の「臼井八景」の序文には次のように記されている。
湖畔のこの美しい処に詩人の詩がなく,歌人の歌がないことは,あるべきものが欠けているようなものだ。このままにしておくことは,風流人の罪というものだ。
八景それぞれの美しさは漢詩と和歌で描かれている。舟戸夜雨の情景を案内板から読んでみよう。宋的の漢詩と信斎の和歌を意訳した文章である。
しとしとと小雨の降る舟戸の夜はもの寂しく,暗い岸辺の漁師家からは青白い灯がぼんやりと光って見える。時折,宵闇の湖面から水浴びする鴨の声が騒がしく聞こえ,この雨の中,漁夫の翁が小舟に乗り漁をしている。網が雨に濡れ,浪に寄せられて,網をひく縄手が辛そうに見える。
ここは印旛沼。水質の悪化で有名になってしまった湖だが,美しい風景は今も健在である。
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