景観の創造ほど難しいものはない。なにせ個人の思いだけでは創れないものだ。日本の町は災害との闘いであった。洪水,地震,戦乱,そして大火。景観をすっかり変えてしまうほどの出来事が幾度とあったのだろう。しかし,そのたびに人々は力を合わせ復興させてきた。まさに,その時,景観が創造された。
川越市幸町に「時の鐘」がある。
創建は寛永年間で,市指定文化財だけでなく,環境庁主催の日本の音風景百選にも選定されている。すぐ近くの蔵造りは「滝島家住宅」で,やはり市指定文化財である。このあたりは,小江戸・川越を象徴する景観地区で,いわゆる「重伝建」に指定されている。
しかし,この景観が江戸の昔を伝えているのではない。川越は,明治26年(1893)3月17日夜8時30分頃出火した火事により,町全体の三分の一以上である1300余戸を焼失している。町の復興では,西洋から入ってきたレンガ造りではなく,黒漆喰仕上げの土蔵造りが採用された。鐘つき堂は昔のままに再建されたが,上記の滝島家住宅は明治28年11月18日の建築である。重厚な土蔵は商人の信用の証である。
同じく幸町に「埼玉りそな銀行川越支店」がある。
ルネサンス様式のこの建物は大正7年の建築で,もとは第八十五銀行本店であった。その後,埼玉銀行,あさひ銀行を経て現在の行名となっている。
小江戸・川越,その歴史といい建造物といい,重層的に活きている町である。
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