帰りたいと言って泣くので元の場所に戻したら泣き止んだ,という石の伝説を時々聞く。今日紹介する話もそれに少し似ている。
姫路市香寺町田野に「岩帰大明神」がある。御神体は,腰掛けるのにちょうど良い大きさで「岩帰さん」とも呼ばれる岩である。下の病気に御利益があるらしい。この岩には次のような伝説がある。
この岩を川の荒い石(飛び石)にしようと人夫が運ぼうとしたところ,人夫達が急に腹痛を訴え歩けなくなってしまった。これは何かいわれのある岩に違いないと持ち帰ることにしたところ,腹痛がおさまった。「岩が帰る」で岩帰さんとして村人の信仰を集めるようになったという。
また,落武者伝説もある。近くの田野城が落城した際,この岩に腰掛けた負傷の武者が自ら切腹して果てたとも伝えられる。
実は「岩帰大明神」は,お寺の境内にある不思議な神様だ。「清亮山法琳寺」である。
この寺のある地は,赤松八十八旗で田野城を持つ堀氏の居館があった場所だ。寺からおよそ西の方角に「田野城」がある。赤松氏の本拠である置塩城にも近い。城主は堀出雲守満則であったが天正五年に秀吉の中国征伐で落城したという。
中世の名族・赤松氏の名残をここでも見つけた。栄枯盛衰は世の常であるが,忘却されることくらい哀しいことはない。寺の境内にある岩の神様に合掌しつつ,赤松氏の時代に想いを馳せるのも供養というものだろう。
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