弘法大師ほど伝説の多い方はいない。大師が杖を突いたら泉が湧き出してきただとか、逆に大師が水を所望したにもかかわらず惜しんで与えなかったので水が涸れてしまったなど、大師の霊験を示す話は全国各地に分布している。
福山市沼隈町大字上山南に「弘法の井戸」がある。松永から熊野へ向かう広島県道382号線沿いに位置している。
この水には、次のような由来がある。『沼隈町のくらしと伝承』(町誌編さん資料第三集)にも記述があるが,現地案内板のほうが分かりやすいので,そちらを読んでみよう。
今から千二百年ほど前,弘法大師(空海)が菅田を通りかかったときのことです。
みれば里人たちが,のみ水に苦労しているようなのであたりを見廻して,錫杖を地面に突き立てました。
ここを掘れば,必ず水が出ると言い残して,菅田を後にしたのです。
里人が言はれる通りに掘り進むと,こんこんと清水が湧き始めたのです。
里人が喜んで,ここに井戸を掘りました。この井戸はどんなに日照りが続いても,決して涸れることがありませんでした。
以来この水を,弘法の清水とか,弘法がは,とか呼び,大師を偲ぶ大切な水になっています。
まさか弘法大師自身の話ではあるまい。高野聖など諸国を廻った僧が伝えたものだろう。山里において水の確保はとりわけ関心が高い。水の豊かさは生活のゆとりであり,心の豊かさである。感謝の気持ちが,湧き出る水と偉大な宗教者を結びつけたのであろう。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。