水がペットボトルで売られているのを初めて見た時、水にお金を出すのか、と思ったものだ。今ではよく分かっている。おいしい水は簡単には手に入らないことを。環境省選定の名水を求めてポリタンクを持って出掛ける人は多い。今日は播磨の守護大名、赤松氏が選定したという名水を紹介しよう。
兵庫県揖保郡太子町黒岡に「桜井の水」がある。
『播磨鑑』によると、龍野城主の赤松広秀は次のように詠んでいる。
黒岡に行きき人の心あらば 薬ともなれ桜井乃水
太子町糸井に「糸の井」がある。
『播磨鑑』及び現地説明板によると、鎌倉時代中頃にこのあたりに浄土宗をひろめた、朝日山の顕実上人の硯水と伝えられているそうだ。顕実上人は次のように詠じている。
いろいろの木の葉流るる糸の井は ゆきき人のしるしとぞきく
紹介した二つの古い井戸が保存されているのは、「播磨十水」と呼ばれた名水だったことによる。これを選定したのが名族・赤松氏である。名水のリストが気になるところだが、『播磨鑑』は次のように伝えている。
【播磨十水】 赤松義村ノ定置れし所也
一小野江清水 姫路ぎふ町侍町也 郭内ほそく流るゝ水也
一岡田苔清水 飾東郡星田庄山崎村ノ内 小名 清水ト云
一篠井清水 揖西郡黒崎村
一花垣清水 揖東郡佐野村 古へ二条家ノ御領地也
一小柳清水 揖西郡平井村
一御所清水 飾西郡田寺村辺梅がたハ
一野中清水 明石郡印南野ノ中
一井ノ口清水 印南郡幣ノ庄いノ口村
一落葉清水 赤穂郡舟曳ノ庄ノ内ニ在之
一桜井清水 揖東郡黒岡村西ノ方在之
是置塩城主赤松総州則房雑談聞書ニ有之所也
赤松義村作書の秘事枕ニ予見立し播磨十水
一花垣清水 一井ノ口清水 一御所清水 一篠井清水 一苔清水 飾西郡西脇村善導寺谷 一大木清水 飾西郡英賀村 一柳清水 揖西郡英賀村
是義村の作書に出れは根本の十水乎 乍然七ヶ所有て三ヶ所不見書写する人の麁相か 則房の聞書と齟齬する所有 後に則房の改られしか
英賀の妾あけほの作書めさまし草に赤松屋形殿播磨十水
一御所ノ清水 一苔清水 一鷺ノ清水 今姫路御城内清水門ノ内ニ有 一篠井清水 一柳ノ清水 一花垣清水 一小野江清水 一井ノ口清水 一糸の井 一なから井 異説有か 是は慥ならさるか
井戸の名前や伝えられた経緯にやや混乱が見られるようだが、播磨の名水を播磨の名族と結びつけたのは、人々の赤松氏への思慕だったのかもしれない。
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