ショックだったのはバーミヤンの磨崖仏が破壊されたと知った時だ。歴史上確かに繰り返されてきた文化財の破壊の一つではある。しかし文化財保護が世界レベルで行われるようになった現代において、あのようなことが発生するとは思ってもみなかった。何年経っても磨崖仏と聞く度に、あの時の喪失感を思い起こす。
京都府相楽郡笠置町大字笠置字笠置山の笠置寺に「伝虚空蔵磨崖仏」がある。
「伝」と冠されているのは虚空蔵菩薩だとも如意輪観音だとも弥勒菩薩だとも言われていることによる。虚空蔵は大空のように限りない宝を生み出す仏であり、如意輪観音は人々の願いを叶えてくれる仏であり、弥勒は釈迦のあとに如来となって人々を救う仏である。
実のところ、その違いが分からないし、いずれの仏尊であっても御利益がありそうなので問題はない。笠置寺奉賛会の設置した説明板を読んでみよう。
寺伝では弘仁年間(八一〇-八二四)弘法大師がこの石にのぼり求聞持法を修し一夜にして彫刻せし虚空蔵菩薩といわれる。
彫刻の様式から中国山西省雲崗の磨崖仏に相通じるものがあるところから本尊弥勒磨崖仏と同様奈良時代の渡来人の作と考えられる。
先年拓本にとり八米×十米の大掛軸が出来た。おそらく拓本の掛軸としては最大だろう。
求聞持法(ぐもんじほう)とは、虚空蔵菩薩の真言を百万遍、百日間続ける密教の修行で、記憶力が増進するという。空海が求聞持法を行うことによって、明星の光跡が石を穿ち、磨崖仏が出現した。レーザー彫刻というわけか。
現場はとても狭く、後ろは急斜面だ。精一杯下がって撮ったのが上の写真である。1200年前の貴重な文化遺産。もう一つの大磨崖仏、弥勒像は元弘の変で焼失してしまった。だが、この虚空蔵菩薩は永久に吾等と共に御座します。