お寺の御本尊は本堂の中にいらっしゃる。本堂の中に入って伏し拝みもする。御本尊が秘仏となっている場合もある。秘仏だから見えない。しかしそこに確かな存在を感じる。見えないものが存在するのだ。
京都府相楽郡笠置町大字笠置字笠置山の笠置寺に「弥勒大磨崖仏」がある。
ある、というか、ない。なぜないのかは笠置寺奉賛会による説明板に教えてもらおう。
笠置寺の本尊仏であり、高さ二〇米巾十五米の石面に弥勒如来が彫刻されていたが、前に建てられていた禮堂が三度の火災により焼亡、その都度石面も火にかかり仏像は磨滅してしまった。
奈良時代、東大寺良弁実忠両和尚の指導のもと大陸から渡来して来た人々によって彫刻されたようである。平安時代、天人彫刻の仏として多くの人々の信仰を集めた。世に言う笠置詣りである。
三度の火災とは大治5年(1130)4月、元弘元年(1331)9月28日、応永5年(1398)の出来事である。1130年には弥勒像の足が焼けた。1331年は史上有名な元弘の変に当たる。笠置寺は兵火に包まれたらしい。後醍醐天皇は弥勒像を実見した最後の貴人だったのだろう。
弥勒菩薩ならよく知っている。広隆寺の半跏思惟像である。ここに刻まれている弥勒如来とは何か。弥勒は現在修行中の菩薩であり、56億7千万年後に姿を現して如来として人々を救済することとなっている。至尊の仏のお姿である。
どのようなお姿なのか。笠置寺の弥勒像の模刻とされるのが、奈良県宇陀市室生大野の大野寺の磨崖仏である。行ったことはないが優美な立ち姿をネット上の画像で拝見した。想像してみるのみの笠置寺の弥勒像。永遠の秘仏である。
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