あんこが嫌いだった。甘くて体に悪いかのように思っていた。そのくせカスタードクリームは食べていたのだから話にならない。それがどうだ。今じゃ、あんこが好きだ。つぶあんがいい。絶妙な甘さが分かるようになってきた。この歳になると、おそらくカスタードより健康にもいいはずだ。
安来市大塚町に「坂田眞月堂」がある。和菓子のお店である。
この店の代表的銘菓は「千鳥羹」である。浜に飛び交う千鳥をイメージしたものだという。
島根県といえば松江の上品な和菓子が有名だ。松江歴史館という市立博物館の中の喫茶店は芸術的な上生菓子を売りにしている。和菓子なんぞ全国どこにでもあるにはあるが、文化にまで昇華しているのが松江の特色である。
その伝統ある松江和菓子の流れを汲むのが千鳥羹である。商品に添付されている説明を読んでみよう。
明治初期の創業であります弊店は、初代仲蔵が松江藩御用菓子司三津屋惣七に学び、松平不昧公好みの「東雲(しののめ)かん」をもとに多年研究を重ね、本菓を生みだし、「千鳥羹」と名づけ、以来、口こみにより食していただいております。
ここに登場する松平不昧公(1751~1818)は松江藩第7代藩主で史上屈指の茶人として著名である。おかげで茶の湯につきものの和菓子が発展した。松江の文化的イメージは不昧公が原型を作ったといっても過言ではない。
松江の銘菓は「不昧公好み」と形容されている。そのうち東雲羹は白小豆を原材料として寒天を使わずにかためたもののようだ。この千鳥羹も上品な甘さと優しい食感で美味しい。松江からずいぶん離れた地でも、このような洗練された和菓子が伝えられてきたとは。レベルの高さに恐れ入る次第だ。
だからこそ天皇陛下のお口に入るという栄に浴したのであった。先程と同じ説明を読んでみよう。
昭和二十三年、昭和天皇が山陰行幸の砌、ご賞味を賜り「比類稀なり」との御言葉をいただきました。
僭越ながら私も同じく「こんな美味いもん、知らんわ」と言わせていただきたい。ここ大塚町を舞台にした朝の連ドラ『ゲゲゲの女房』でお見合いの席で食されたというのも当然だ。史跡紹介ではなくグルメレポートになってしまったが、この度は何卒ご寛容いただき、変わらぬご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。
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