日本三大がっかり名所という有名な観光地がある。むかし、バスガイドさんから、札幌の時計台、高知のはりまや橋、沖縄の守礼門だと聞いた。守礼門は首里城が復元されてからはがっかり度が下がってしまったようだ。私は時計台にも守礼門にも行ったことはない。はりまや橋だけは今回で2回目となる。
高知市はりまや町一丁目に「はりまや橋」がある。ずいぶん前に訪れた時には「これかよ」と思ったものだ。たしか、川がないのに欄干だけあったように記憶している。
ところが、今回目にした橋はなかなかどうして立派な橋ではないか。川に架かっている。しかも、それらしい人まで渡っている。かつての橋に比べると、がっかり度はかなり低落している。
はりまや橋がなぜ有名なのか、実はよく知らない。見た目のがっくりだけではあるまい。有名だからこそイメージと現実とのギャップが生じるのだ。説明板を読んでみよう。
江戸期のはりまや橋
藩政時代、堀で隔てられていた豪商播磨屋(はりまや)と、富商櫃屋(ひつや)が互いの往来のために架けた私橋が、後に「はりまや橋」と呼ばれるようになります。当時は、簡素な木造りの橋でした。
橋は、時代とともに幾度か架けかえられ、昭和三十三年には南国博覧会のため、朱色の欄干が登場します。翌年、歌謡曲「南国土佐を後にして」がヒットしたことで、同名の映画が創られ、スクリーンに映し出された朱色の欄干が「はりまや橋」として、全国に知られるようになりました。
なるほど、歌謡曲のヒットで観光スポットになったわけだな。今ならアニメに登場する場所がマニアックなスポットになるようなものだ。橋の右に白いモニュメントがある。何だろうか。
出逢いの広場
よさこい節
土佐の高知のはりまや橋で
坊さんかんざし買うを見た
よさこい よさこい
純信お馬像は高知市出身の漫画家横山隆一氏のデザインです
「よさこい節」にも「南国土佐を後にして」にも登場する有名な歌詞だ。坊さんがかんざしを買うとは、何か意味ありげだ。物語の登場人物は、どうやら純信くんとお馬さんという名前らしい。どのような物語なのか。平凡社『世界大百科事典』第2版の「よさこい節」の項で調べてみよう。
高知県の代表的な民謡。江戸時代から歌われているが、起源には諸説ある。代表的な歌詞の〈土佐の高知の播磨屋橋で、坊さん簪(かんざし)買うを見た〉と歌われるのは、1855年(安政2)竹林寺(ちくりんじ)南坊の僧純信(順心)が鋳掛屋(いかけや)信平の娘お馬に懸想し、寺の品物を持ち出して与えていたが、あるとき、播磨屋橋の小間物屋でサンゴ(珊瑚)の簪を買っているところを見つかり、情事と不正が明るみに出て、2人とも追放になったという事件を歌ったものという。囃子詞の〈よさこい〉は〈夜さり来い〉からともいう。
純信が好きな人のためにかんざしを買ったのは、橋の南詰東側にあった「橘屋」という小間物屋だったそうだ。情事はよしとしても、業務上横領はいただけない。だが、それだけ激愛していたということだろう。
悲恋とヒット曲から膨らんだ豊かなイメージの一方で、欄干しかないやんという現実。そのギャップが、がっかり名所「はりまや橋」の魅力であった。がっかり度が下がったことは少々がっかりだが、ここを訪ねずして高知に行ったとは言えまい。
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