大まかに言って風景は四角と三角から成り立っている。試みに地平線の上に四角をいくつか並べて描き、その背後に三角をいくつかを描いてみるとよい。四角の上に小さな三角を乗せてもよいだろう。
いっぽう丸いものはあまり見かけない。特に球体は安定が悪いし、スペースに無駄が生じる。大きくて丸いものは普通つくられないものだ。しかし、筑波山にはあった。見慣れない風景を創り出していた。
つくば市筑波の筑波山神社の参道脇に「特産新都(しんみやこ)之碑」がある。苔がついて分かりにくくなっているが、これはスイカだ。縦縞も描かれているようだ。
茨城県はスイカの産地である。2012年で全国7位だが、「小玉(こだま)スイカ」は全国一を誇る生産量である。筑西市や桜川市など筑波山を東に望む地域で栽培されている。
この斬新な碑が建てられたのは昭和29年である。「新都」と茨城県とは、どのような関係があるのだろうか。台座にはめ込まれている碑文を読んでみよう。
筑波の山は風光明眉の地なり
茨城県下を一望に収む男体女体相ひ和して聳へ四季に美し春秋は紅に粧ひ更なり裾野は広芧沃土に栄へ豊穣稲穂の波をなす
この地を卜して之の碑を立つ曰く本県の産業は農をもって基礎とし数々の特産あり盛夏の候味覚の王たる西瓜の栽培又二千余町歩に及び関東第一の産なり戦後復興して再び繁栄せんとすこの時東京都小金井古谷春吉氏作出の交配種新都を有志の者持ち来り裁培し相より集まり扶けあって特産となす適偶東京都下北多摩の精農より新技術の伝授を受けて益々その盛栄を加ふ誠に感謝の至りなりかくて市場の名声を加へんとす
思ふに特産品の育成は協力にあり特産の発展は一人の力に非ず協力と四囲の恵による互に和して感謝の念より発す
こゝに将来の発展を期してこの碑を建つ
県下特産西瓜の精栄を祈りて
昭和二十九年七月七日
西瓜新都協会茨城県各支部有志一同
茨城県のスイカ農家が、東京小金井の古谷春吉さんがつくった新品種「新都」を持ち帰り、北多摩の農家から技術指導を受けて栽培に成功し、今では特産品となっている、ということだ。
調べてみると、「新都」は、「新大和(大和三号)」という品種と千葉県農事試験場で育成されていた「都二号」を交配したものであった。昭和18年に東京が府から都に格上げされたのにちなみ「新都」と命名された、という。
行ったことはないが、群馬県前橋市三夜沢町の赤城神社にも、スイカのモニュメント「西瓜新都F1採種之碑」がある。「新都」はかなり広範囲で栽培される優良品種だったことが想像される。
今月16日にはJA北つくばの集荷場では、特産の小玉スイカの出荷が始まったようだ。品種はスウィートキッズが約7割を占め、スーパーなど店頭では1個2千円近くになるという。「新都」を栽培していた時代以来の生産技術の高さは今も健在であった。
同じく筑波山神社の境内に「宇宙の卵」がある。
茨城県の平成25年の鶏卵生産量は全国一なのだが、それと関係があるのかどうか分からない。とりあえず説明板を読んでみよう。
万博会場の東ゲートに飾られた科学万博つくば’85のシンボル強化プラスチック製で銀色鈍く輝く「宇宙の卵」は無の象徴として生まれみんなであたためる未来の夢が楽しみである。
制作者はランドスケープデザイン研究所長の上山良子さん。長岡造形大学の学長も務めた世界的に有名なランドスケープアーキテクトである。環境デザインの専門家で、有名な作品には港区芝三丁目の「芝さつまの道」がある。2002年にグッドデザイン賞を受賞した。
静謐な神域に安置されたこの現代アートは、神社を定型化されたイメージで見てはいけないことを教えてくれる。ここを通る者は見過ごすことができず、何がしか心を動かすこととなる。もしかしたら、それが信仰の始まりなのかもしれない。
無の象徴として生まれたという「宇宙の卵」。この卵が孵化すると何が出てくるのか。無から時空が生みだされたビッグバンが起こるのだろうか。その時は新たな歴史が始まるというのか。
いや、ピキピキッと割れた卵からは人が現れるかもしれない。ん?何かしゃべってるぞ。「クリミアの美しすぎる検事総長はよかったよ。ウラー!」誰かと思えば、鳩山元総理ではございませんか。いやいや宇宙人の卵じゃないってば。
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