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人の評価は歴史が下すという。その政治的行動は成功すれば改革者として高く評価され、失敗したとしても後続の者が成功させれば、先駆者としての評価が得られる。
明治維新の先駆けとしては、幕末三大義挙が知られている。うち生野の変については以前にレポートした。天誅組の関係史跡には行ったことがない。そして今回、もう一つの義挙、天狗党の史跡をレポートする。
つくば市筑波の筑波山神社参道入口に「藤田小四郎之像」がある。気合いの入った若者である。オレは志のために生きる!「自(みずか)ら反(かえり)みて縮(なお)くんば、千万人(せんまんにん)と雖(いえど)も吾(われ)往(ゆ)かん」という孟子の格言を思い出す。
ポリティカルアパシーの蔓延した昨今のニ十歳代とは異なり、日本を丸ごと動かそうとした若者である。彼の短くも峻烈な人生には、どのような意義があったのだろうか。銘板の文章を読んでみよう。
幕末期、水戸藩九代藩主斉昭、烈公ノ重臣藤田東湖ハ水戸学ノ理念デアル尊王正気ニ力ヲ盡クシ、諸国志士ノ尊敬比ナキ碩学ノ人デアッタ。第四子ニ小四郎アリ。父ノ教エヲ守リ、常陸府中(現石岡市)ニ根拠ヲ設ケ諸国ノ同志ヲ募リ、元治元年三月二十七日府中若松八幡ニ集マレル同志七十四名ト共ニ関東ノ秀峯筑波山ニ登ル。尊王攘夷倒幕ノ狼煙ヲ挙ゲ天下ノ耳目ヲ驚カセ諸国同志ノ激発決起ヲ促シタガ、時ニ利非ズ。参ジタ者八百有余人ト共ニ京都ニ赴キ事ヲナサント謀リシガ、幕軍ノ為ニ越前敦賀ニテ処刑、時ニ齢二十三歳ノ弱冠也。世ニコレヲ水戸天狗党ト呼ンダ。コノ挙兵ニヨリ徳川幕府ノ瓦解ヲ十年早メタト言ワレテイル。明治維新ノ先駆者藤田小四郎ヲ顕彰シ像ヲ建ツ。平成二年九月十五日
まず、この親にしてこの子あり、水戸藩を代表する碩学、藤田東湖の子である。藤田東湖については「東湖神社」、「藤田東湖護母致命の処」と2回レポートしている。
東湖は安政二年(1855)に地震により圧死した。その時、小四郎はまだ12歳であったが、その後に盛り上がる尊王攘夷運動は父の思想を具現化する格好の舞台となった。その手法は、社会の理想と現実のギャップを埋めるための直接行動であった。おそらくは、高度成長期の若者が学生運動に身を投じたのと同じ高揚感があったに違いない。
尊王攘夷運動のピーク、文久三年(1863)5月10日の攘夷決行日に長州藩は米船を打払う。朝廷内でも尊攘急進派がヘゲモニーを掌握し、大和への攘夷親征が計画された。その先鋒になろうとしたのが天誅組であり、その挙兵に倣ったのが生野の変である。
その間、8月18日に宮廷クーデターが発生し急進派は長州へと追放される。尊王攘夷運動は退潮するものの長州藩は巻き返しを図っていた。藤田小四郎は長州の尊攘志士桂小五郎と交流を深め、東西呼応して攘夷決行を図ろうとした。
元治元年(1864)3月27日、鈴之宮稲荷神社に藤田小四郎ら73名が集結し、筑波山において挙兵した。当初は横浜鎖港を目指していたが、藩内で敵対する諸生派や幕府勢との戦いにより大子(だいご)村に退いてからは、水戸藩主家出身の一橋慶喜公に衷情を理解してもらうため京都を目指すこととなった。
中途から合流した武田耕雲斎を総帥として大子村を出発したのが11月1日、北関東、信州、美濃を経て、幕府勢の追討により越前で降伏したのが12月17日であった。翌年2月4日に耕雲斎、23日に小四郎と幹部は敦賀で斬首された。耕雲斎の一族は幼児に至るまで処刑された。
筑波山神社の境内に「田丸稲之衛門君筑波記念碑」がある。稲之衛門はもと水戸町奉行で、天狗党の筑波山挙兵に当たっては、若い藤田小四郎に代わって総帥を務めた。
稲之衛門も耕雲斎と同じ日に斬首され、やはり一族も処刑された。この顕彰碑は明治22年(1889)2月の建立で、撰文は子爵品川弥二郎である。品川は天狗党が連携しようとした長州藩士で、大河『花燃ゆ』では音尾琢真(おとおたくま)さんが演じている。
稲之衛門は明治22年5月に靖国神社に合祀され、24年12月には従四位が贈られている。水戸藩の立場は佐幕であり、天狗党は討幕の意志など毛頭もなかった。しかし、結果的に幕府に敵対したことが、倒幕を果たした薩長政府に高く評価されることとなったのである。歴史が人を評価するとは、こういうことだ。
天狗党が挙兵して150年、昨年は水戸や福井で記念の展覧会があったようだ。維新の先駆けという面からは、近代の国家制度を引き継ぐ現代からも評価に値しよう。
だが、いったんは壊滅したかに見えた天狗党は、御一新により耕雲斎の孫、金次郎が復権し、諸生派に復讐することとなる。凄惨な内ゲバにより水戸藩の人材が払底したというのは、史書が共通に指摘しているところだ。それゆえに必ずしも手放しの評価をすることが憚られるのが実情のようだ。
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