バラエティ番組の影響だろうか、最近は手をたたいて大笑いすることがあるが、昔はしなかったような気がする。この場合、手をたたくのは相手への称賛ではなく、笑いの身体表現だ。
手をたたくという行為には、拍手して喝采するとか、リズムに合わせて手拍子するとか、雰囲気を盛り上げる効果がある。そういえば、チンパンジーも手をたたくが、笑う人が手をたたくのに似ている。
「拍手(はくしゅ)」と字面が似ているが、「柏手(かしわで)」を打つという神前の作法もある。おそらく古い時代から、手をたたくことには大切な意味があったのだろう。『魏志倭人伝』には次のように記録されている。
見大人所敬、但搏手以當脆拝
大人の敬する所を見れば、ただ手を摶(う)ち以て跪拝(きはい)に当つ。
偉い人への敬意の表し方は、中国ではひざまずいて礼拝するが、倭では手をたたくだけである。
邪馬台国の風習が、神社の柏手の起源なのだろうか。今回は神社のレポートだ。もちろん柏手を打った。すると不思議な現象が起きたのである。
大田市大森町に「城上(きがみ)神社拝殿」がある。県指定有形文化財(建造物)である。
祭神は大物主命(おおものぬしのみこと)で、縁結びに御利益がある。重層式の入母屋造の拝殿は江戸の亀戸天満宮を手本としたものだという。圧巻はその天井だ。石村禎久『石見銀山』(石見銀山資料館、昭和63)には、次のように記されている。
現在の社殿は文化八年(一八一二)の造営、拝殿の格子天上の中央には四メートルと五メートルの龍の彩色絵が勇ましく描かれている。鳴き龍で、絵の真下に立って手を叩くと、天井がリンリンと響く。龍の絵は文化十五年に三瓶山ろく志学の円隣斉梶谷守休が描いたもので、神社の盛んなころがしのばれる。
志学とは大田市三瓶町志学のあたり。そこ出身の絵師の作品が絵がコレだ。
龍の下で手をたたくと、確かに音が反響する。リンリンという涼やかな音ではなく、ビンビンと緊張感のある音がした。「むくり」という天井の反りが、不規則な音の反射を引き起こすらしい。この現象をフラッターエコーという。
魏志倭人伝の時代には偉い人に対して手をたたいたようだが、今は神様に対して柏手を打つ。その音にエコーがかかると、特別な空間にいるような気分になる。神様のありがたさがいっそう身に沁みて感じられることだ。
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