美波羅(みはら)川という愛羅武勇のような名称の川がある。江の川水系で日本海へ流れ行く。この美波羅川の支流に森谷川があり、並行して広島県道45号三次大和線がある。この道に車を走らせていると、突如「吉武滝」という看板が目に入った。あっという間に通過してしまったが、気になるので引き返したのである。
三次市三若町と同市上田町の境あたり、森谷川の支流に「吉武(よしぶ)滝」がある。このあたりは吉武峡とも呼ばれる。
訪れたのは残暑厳しい9月半ば。日なたでは水面の輝き、日陰では映る葉緑がつくる絵画のような空間に、せせらぎの涼やかな音が趣を添える。私はしばし佇んだ。
この川には名称がない。山中にはよくある川の一つだ。岩の間を潜り抜けたり、静かな淵をつくったり、同じ川でも様々な姿があるが、落差の大きな崖や斜面を一気に下るのは、特に人の心をつかむ。
淡々とした普段の生活を非日常のイベントが盛り上げてくれるのと同じで、下流へと絶えず流れる川の特異点に、人は希少価値を感じるのであろう。この気持ちを何とか記憶に留めておきたいと写真を撮った。好天に恵まれたおかげで光があふれ、心洗われる滝時間を過ごすことができた。地域随一の名瀑として推したい。
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