「古墳にコーフン協会」というニッチな同好会があるが、その気持ちはよく分かる。古墳は古い墓だから貴重、という以上に、形の美しさが魅力である。
本日紹介する「古墳」はとてもユニークな形をしており、コーフンすること間違いなしなのだが、正確には「墳丘墓」なのだという。
古いお墓は何でも古墳なのかと思ったら、そうではない。古墳時代に造られたから「古墳」という。いやいや、古墳が造られたから古墳時代でしょ、と思うのだが、そんな整理になっている。
三次市東酒屋町に国指定史跡の「矢谷(やだに)古墳」がある。標高230mの丘陵上にあるので見晴らしがよい。弥生時代終末期から古墳時代初頭に築造されたので、「矢谷弥生墳丘墓」とも呼ばれる。
何かが突き出しているような印象的な形をしている。この突出部は四隅にあり、一般的には「四隅突出型墳丘墓」という。ところが、この墳丘墓には突出部が6つあり、前方後方形をしているという特色がある。説明板では、次のように解説されている。
この型の墳墓は、島根県の出雲地方を中心とする日本海沿岸地域によく見られるもので、墳丘の四隅が対角線上に外側に張り出している特異な形状をしています。墳丘は尾根の高まり利用して造られ、斜面には貼石を施し、墳丘裾には石列をめぐらせています。
「四隅突出型墳丘墓」は出雲地方の特色である。かつてこの地方に、文化的そして政治的なまとまり、古代出雲王国があったことが想像される。説明板はこのようにも語っている。
また、この墳墓の周溝内からは組み合わせれば高さ1.5mにおよぶ特殊器台・特殊壺(国重文・広島県立歴史民俗資料館蔵)と呼ばれる大型の供献土器が約10個体分出土し、これらは岡山県の吉備地方南部で盛んに使用されたものと同じ土を使ってつくられています。
「特殊器台・特殊壺」は吉備地方の特色である。こちらには古代吉備王国があったと考えられている。出雲と吉備を結ぶ地点に築かれた「矢谷弥生墳丘墓」は、出雲・吉備連合の象徴的存在と言えよう。
この墳丘墓には、驚くべき出土品がある。説明板を読もう。
なお、平成24(2012)年の分析調査で、方形区画墓から出土したガラス小玉に、古代ローマ帝国で生産されたガラスに特徴的な成分であるナトロン(蒸発塩)が含まれていることが判明しました。
古代ローマ帝国のガラス玉かもしれない。とすれば、シルクロードをはるばると旅して、ファーイースト日本まで来たのだ。喜多郎の音楽に乗せて石坂浩二に語ってほしい気分だ。千数百年前とはいえ、私たちの思う以上に国際的だったのだろう。
古墳時代になると、「四隅突出型墳丘墓」は急に造られなくなる。このことは、大和王権によって出雲・吉備連合が征服された、と解釈されている。つまり「矢谷弥生墳丘墓」は、出雲・吉備連合が最後に咲かせた大輪の華と位置付けられよう。
古墳にコーフンする方ならご存知であろうが、「古墳ギャルのコフィ―」という秀逸なアニメがある。キャラクターは基本的に前方後円墳なのだが、コフィーの幼なじみのダニエルは四隅突出型墳丘墓である。
気の毒な役割をあてがわれることが多いダニエル。しかし、君の仲間「矢谷弥生墳丘墓」は、古代ローマともつながる出雲・吉備連合の象徴なのだ。自信もって立ち向かえダニエル!
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