「アトレウスの宝庫」は、ギリシャのミケーネにある古い時代の墓である。画像検索すると分かるが、その迫力に圧倒される。これは現存最古の石造ドームで、紀元前1250年ごろに作られたものだという。ミケーネ文明、恐るべしである。
ドーム型の古墳なら日本にもある。アトレウスの宝庫には及びもないが、今日は日本の石造ドーム二つを紹介しよう。
たつの市新宮町馬立にある馬立古墳群に、県指定史跡「姥塚古墳」がある。
見た目は地味だが、石室の保存状態は良好だ。県指定の文化財とされるだけの理由がそこにある。説明板を読んでみよう。
本墳は、古墳時代後期(6世紀後半)の円墳である。墳丘は二段築成で築かれており、直径18.5メートル・高さ6メートルの規模をもつ。
内部主体は片袖式の横穴式石室で、ラッパ状に開く羨道部と正方形に近い玄室(3×3.6メートル)からなる。玄室の壁面は極端な持ち送り構造をもち、高さ3.8メートルのドーム状の天井(穹窿型石室)を形成する。このような構造をもつ古墳は朝鮮半島に原形がみられることから、本墳は渡来人の墳墓の可能性がある。
なお、本墳からは当地域の首長墓等からよく出土する装飾付脚付壺が見つかっている。
平成2年11月 兵庫県教育委員会
この古墳の見どころは「穹窿型石室」だと分かる。穹窿は「きゅうりゅう」と読み、半球状に見える大空を意味するが、建築では「ドーム」のことである。石室に入ってみよう。
確かに、上に向かうに連れて空間が狭くなっており、上部には天井石が並んでいる。朝鮮半島の影響が考えられ、渡来人の墳墓と推定されている。馬立古墳群は32基から成り、姥塚古墳は1号墳に位置付けられている。リーダー格の人物が葬られたのであろう。
「ドーム状の天井」の古墳を求めて、もう1世紀さかのぼってみよう。
奈良県生駒郡平群町椿井に県指定史跡の「宮山塚古墳」がある。
真っ暗な石室内を適当に撮ったので、残念ながら上部が写っていなかった。この古墳の特色は天井にある。説明板を読んでみよう。
椿井の氏神、春日神社西側の民有地に所在する円墳で、東西二六m、南北二四m、高さ約七.一mの円墳。
主体部は南に開口する古式の横穴式石室で、玄室は長さ四.二m、幅二.九m、高さ約三.二mの正方形に近い平面プランで、玄室の奥より見て右側に袖のある右片袖式石室。
玄室の四壁は、下半が垂直に積まれるが、上半部分は内側に持ち送られたドーム状を呈し、明確な天井石はない。羨道も長さ〇.八m、幅一m、高さ約一mと非常に小さい。奥壁中央の上下二ヶ所に、石材の窪んだ場所があり、燭台を配置する龕(がん)丈施設と推定されている。
特殊な石室構造より五世紀後半~末頃の築造で、近畿地方の導入段階の完存する横穴式石室として貴重な存在である。
墳丘は東方の山頂稜線に築城された中世城郭・椿井城への登り口施設に取り込まれ、墳頂部が平坦に、墳丘が方形に加工されており、墳丘北東には土塁が築かれている。
平成一七年三月 奈良県教育委員会
この古墳は、我が国における横穴式石室の初期の導入例として貴重だ。しかも、明確な天井石がなく、見事なバランスでドーム状に石が組まれている。百済の武寧王陵のある宋山里(ソンサンニ)古墳群(世界文化遺産)との関連が推測されている。姥塚古墳に葬られた渡来人も百済系の人だったのだろうか。
先月末に百舌鳥・古市古墳群を世界文化遺産に推薦することが決まった。前方後円墳の巨大古墳が主体で、石室は竪穴式である。横穴式石室が主流となるのは、もう少し後の時代になる。大きな古墳は迫力があっていいが、石室の中に入れるのも少しワクワクして楽しい。宮山塚古墳に入れないのは、兵庫県南部地震で天井部壁面の一石が落下し危険なため、ということだ。
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