「美男におわす 夏木立かな」と与謝野晶子が詠んだ鎌倉大仏のように、三次元の仏像にはオーラを感じさせる存在感がある。だがそれ以上に、レリーフである二次元半の仏像にリアリティを感じるのは、なぜだろうか。
私たちは三次元の仏像を、丸ごと人為の造形と理解している。だが、自然と一体化した二次元半の仏像には、そこにあたかも出現したもうたかと思わせる迫真性があるのだ。この写真を見てもらいたい。
たつの市新宮町觜崎(はしさき)に「觜崎磨崖仏」がある。巨石にお地蔵さまが浮かび上がってきたように見える。
このありがたい仏像は、その美しさ、そして歴史的意義により県の文化財に指定されている。その意義については、県教育委員会の説明板(平成2年11月)を読んでみよう。
揖保川東岸の鶴觜山岸壁に彫られたこの磨崖仏は、舟形光背をもつ等身大の地蔵立像である。地蔵尊は、蓮華座の上に立ち、右手に錫杖、左手に宝珠をもつ。舟形光背の向かって右側には大きな梵字があり、その下に「右志趣者相当藤原□□□廻之忌辰也藤原 文和三年(1354)十月廿四日……」の銘があり紀年銘のある磨崖仏として県下最古のものである。この磨崖仏は俗に「いぼ神さん」「いぼ取り地蔵」として古来信仰されており、対岸には拝殿がある。
文和は北朝の元号で、南北朝の争乱は混迷を深めていた。摩崖仏は、藤原さんという地元の有力者の何回忌かの供養に奉納されたらしい。もっと古い磨崖仏はいくつもあるようだが、紀年の明確なものは珍しい。
揖保川を挟んで対岸に「觜崎磨崖仏拝殿」がある。
この拝殿から拝むのが本来の在り方なのだろう。仏像は遠きにありて拝むもの。それは、大自然の中に出現した地蔵尊なのである。目の前を流れる揖保川では「アユ釣り」がさかんだ。この夏も川の中に竿が立つのを所々で見ることができた。この写真を見てもらいたい。
たつの市新宮町新宮の「御菓子司 櫻屋」の銘菓に「鮎のすがた焼」がある。釣り上げたアユを塩焼きにしたようなリアリティがある。ありがたい仏像を拝んで、美味いアユの塩焼き(のような和菓子)を食べて詠める。
新宮や 和菓子なれども すがた焼 竿立つ揖保に 釣りし鮎かな
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