銭函駅がどこにあるのか知らないが、入場券を持っている。昔ながらの硬券で「49.12.22」の日付が入る。愛国駅から幸福駅までの切符も持っている。こちらはずいぶん前に廃止になったと聞いている。日付は「49.12.14」。昭和49年である。
1970年代とはそういう時代だった。縁起の良い地名がブームになっていた。ピラミッドパワーなど、見えない力を楽しむオカルトブームのいっぽうで、愛とか幸福という文字からパワーを得ようとしていたのである。そういえば学駅の入場券5枚セットが「ご入学」と喜ばれていた。
鳥取県日野郡日野町金持(かもち)に「金持神社」が鎮座している。なんだか社殿が黄金色に見える。
金持地区には国道181号があるが鉄道は通っていない。最寄駅は特急やくもも停車する根雨駅である。根雨というゆかしい地名は文学作品にふさわしいが、縁起には関係がなさそうだ。もしも金持駅があったなら、入場券が大ブームになっていたことだろう。学駅の「入学」に対して「入金」というわけだ。
もちろん私もあやかりたいので真剣な祈りを捧げたが、ここに祀られているのは、打出の小槌を振る大黒さまでもここ掘れワンワンのイヌでもない。説明板で由緒を読んでみよう。
金持神社由緒
天常立尊・八束水臣津奴命・淤美豆奴命を祭神とし、近世までは「三体妙見宮」といわれていた。
社伝によると、出雲国菌妙見宮から勧請されたという。勧請された年代は不明である。維新後に、現社名に改称された。「金持」という景気のよい地名は、タタラか鍛冶に係わるカヌチ・カナジの語から出た地名だろうといわれる。また、「太平記」に登場する金持景藤をはじめ、「吾妻鏡」「愚管抄」「大山寺縁起」などに名が出る金持氏の本拠地であったと思われる。
この「金持」という縁起の良い名前から、昭和後期から注目され始めた。「当社に祈願してから宝くじを買ったら大当りした」とか、その真偽は別として、噂が噂を呼んで今様流行神となりつつある。
天常立尊(あめのとこたちのかみ)は天地開闢の時に出現したという五柱の一神で、天そのものに神格を与えたものという。宇宙を司るとてつもないパワーを秘めていそうだ。
八束水臣津奴命(やつかみずおみつののみこと)は出雲の国引き神話の巨人神で、国土を創造するというマントル級のパワーを持っている。
淤美豆奴命(おみづぬのかみ)は八束水臣津奴命と同一とする見方もあるが、ここでは妙見信仰と関連付けているようだ。北極星や北斗七星の神格化だから、こちらも壮大なスケールだ。
金運という卑俗な欲望を叶えてくれる神様ではなく、この世とそこで生きる私たちの存在を確かにしてくれた根源的な神様なのである。そのような偉い神様に「カネクレ、カネクレ」とお願いした私は、なんと小さくなんと蒙昧であることか。
それでも1970年代、昭和後期を生きた私は、名前が発するパワーにあやかりたいと思う。縁起の良さそうなお土産もたくさん売られている。カネが欲しいのに少々舞い上がってカネを使った。私が求めたのは、江府町の大岩酒造本店「奥日野の銘酒 金持酒」であった。こいつぁ春から縁起がいいわえ。
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