ストックしておいた野菜にカビを生やすことがしばしばある。ゲゲッと思いながら息をせずレジ袋に封印して捨てる。梅雨の季節はカビの季節。野菜庫の底のほうに置き忘れたものがないか、よく確かめないと。梅雨は「黴雨」とも書くそうだ。梅なら季節を楽しむ余裕を感じるが、黴(かび)はいただけない。もっとも、ウイルスよりはましである。
我が家の天敵カビだが、役に立つ輩もいるという。いつもお世話になっている酒と味噌だ。あの美味さをカビがつくり出したのかと思えば、逆にリスペクトしたくなるくらいである。カマンベールにブルーチーズ、ペニシリン…。脱帽です。
本日紹介するのは虎斑菌というカビが繁殖した竹である。いったい、どのようなものなのか。
津山市南方中に国指定天然記念物の「本谷(ほんだに)のトラフダケ自生地」がある。
あたりをじめっとした空気が包み、倒れた木もあって少々荒れた印象だ。「昭和十六年三月十八日」「岡山県指定天然紀念物虎斑竹自生地」と刻まれた古い石柱がなければ、素人の私には何の価値も分からなかっただろう。説明板を読んでみよう。
トラフダケは、ヤシャダケ(夜叉竹)の桿に黒褐色のカビが楕円形(虎斑状)の斑紋を表したもので、久米町の他に県内では真庭郡および苫田郡内に自生地が確認されている。
虎斑竹の名の所以である、虎斑状の模様を表すカビは名称を虎斑菌(学名キートスファリア)といい、このカビが竹に寄生することより斑紋を生じる。そして、菌糸が茎の中まではびこるため、皮を磨けば磨くほど美しい模様がはっきりと表れ、装飾品として古来より珍重された。
また、ヤシャダケはこの地方で通称ダイミョウチク(大名竹)といっているナリヒラダケ(業平竹)に酷似した竹である。
本町の指定地は面積約一アールを有し、竹菌共にますます繁殖している。学術的な価値も高く、昭和五十一年六月国指定天然記念物となった。
久米町教育委員会
お願い
法により伐採等の行為は禁じられています。貴重な天然記念物をみんなでまもり育てましょう。
珍しいとか美しいとか思ってみれば、そんな気がしてくるが、知らなければ気持ち悪いだけだろう。いや、青竹だからそう思えるのであって、白竹を磨くと斑紋が浮かび上がって美しいのかもしれない。
磨いても斑紋が取れないのは、それだけ菌が根深く侵入しているからだろう。かつて、お餅のカビは削れば食べても大丈夫と言われていたが、実際には目に見える以上に広がっており身体にはよくないという。という以前に、食べてもおいしくない。
アオカビは場所を選ばない。空中にはいつもアオカビの胞子が浮遊しているのだろう。息をすれば一緒に吸い込んでいるかもしれない。これに対して虎斑菌が生えたトラフダケは、岡山県北の限られた場所にしか見られない。似たような生育条件の場所は他所にもあるだろうに。忌み嫌われるカビに大切に保護されるカビ。菌糸と同様にカビの世界は奥が深いようだ。
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