大国の戦争なんぞ、歴史の地層に埋まった化石かと思っていた。二度の世界大戦の上に冷戦の層が積まれ、これをアメリカ一強の層が埋めていた。近年、米中対立とかNATO対ロシアも気になっていたものの、いくら何でも「戦争」はあるまい、と高をくくっていた。核抑止力とはそういうものかと思っていた。
もちろん現代も戦争がないわけではない。それは対テロ戦争であるか、アフリカの一部に見られる紛争である。大国は相手を厳しく非難しても、軍事行動には抑制的だと思っていた。それがお花畑だったのである。本日は緑豊かな数百万年前の世界を訪ねよう。戦争はまったくなかったが、自然災害はよくあった。
国道482号の因美国境に辰巳峠がある。暑いアスファルトの上にカミキリムシがいた。峠を越えて鳥取市佐治町栃原に入ると、左手に県指定天然記念物の「辰巳峠の植物化石産出層」がある。標柱には「辰巳峠化石植物群」とあるが、草が茂ってよく分からない。
要するに、このあたりに植物化石が採れる地層があるのだろう。いつごろのどのような植物なのか、景観は今とどのように異なるのか、実に興味深い。説明板を読んでみよう。
鳥取県指定天然記念物「辰巳峠の植物化石産出層」
(指定年月日平成14年12月20日)
辰巳峠付近には、泥岩を主とし砂岩、礫岩を伴う辰巳峠層が分布している。この辰巳峠層は中新世後期から鮮新世(約1,000万年前~400万年前)の三朝層群人形峠塁層に属するもので、湖沼等の静かな淡水域に堆積した地層と考えられている。
辰巳峠層では保存状態の良好な植物化石が多数発見されており、これまでに約160種が確認されている。このうち、新種として記載されたものが約40種にのぼる。
産出化石の約半分はムカシブナで占められ、この他にブナ科のシキシマナラ、カバノキ科のヘイグンイヌシデ、マツ科のムカシイヌカラマツなどが産出し、これらは辰巳峠植物群と呼ばれる。同一地点における産出種の多様さは全国的にも例がなく、たいへん貴重なものである。さらに、辰巳峠層からは植物化石の他にもアリ、セミ、トンボ、ハチなどの昆虫化石やコイ科の魚化石、淡水性珪藻化石も 産出している。昆虫化石や魚化石は全国的にも貴重なもので、平成21年に確認されたヒラタドロムシ科昆虫の化石は、国内では2例目で、国内最古の化石記録である。
辰巳峠の植物化石産出層は、化石の産出量・産出種類が多いことから、中新世から鮮新世への古環境変遷の詳細な過程を知ることができ、学術的にも地域の文化資産としても極めて価値が高いものである。
平成21年7月 鳥取県教育委員会
人形峠塁層は「累層」が正しい。現在は峠なのに、かつては湖があったようだ。中新世と鮮新世は新第三紀、人類出現から現代に至る第四紀の前に当たる。この頃、三国山の火山活動が活発で、流れ出た溶岩によって堰止湖が形成されたらしい。人形峠湖盆とか古人形谷と呼ばれる水域だ。
ブナなどの落葉広葉樹が中心で、木立の中ではセミが鳴きトンボが舞っていた。湖面を眺めればコイが泳ぐのが確認でき、水に沈む石は褐色の珪藻を纏っていただろう。人形峠で発見されたウラン鉱床も同じ水域で形成された。
ヒラタドロムシとは河川に生息する水生甲虫で、発見されたのは幼虫の化石だそうだ。タツミトウゲオサムシとかイナバムカシアブラゼミという新種も見つかっている。確かに現生種とは異なるかもしれないが、メガネウラのような巨大昆虫じゃあるまいし、現代の風景とそれほど変わらないかもしれない。
人形峠のウランブームもすっかり過去になった。ウランといえば核燃料、核燃料といえば原子力発電所、原発といえばチェルノブイリ。今、その原発をロシア軍が制圧し、ウクライナの首都キエフに迫っているという。ウクライナのゼレンスキー大統領は次のように決意を述べた。
私たちは、戦争は不要だとよく分かっている。しかし、もし、私たちの国を、自由を、人生を、子どもたちの命を軍事攻撃で奪い取ろうと試みるなら、私たちは自衛する。あなたたちが攻撃をするとき見るのは、私たちの背中ではなく顔になるだろう。
ウクライナ当局は市民に火炎瓶を使っての徹底抗戦を呼びかけているとか。いっぽう、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ軍に「権力奪取してほしい」とクーデターを呼びかけたという。おそらくは満州国のような傀儡政権をつくろうとしているのだろう。大統領は歴史からまったく学んでいないと見える。
北方領土問題のためロシアに及び腰な日本。安倍政権下で「島を返せ!」を封印してまでプーチンに媚び諂ったのに、四島は二島に、いや二島でさえ一顧だにされなくなっている。もはや発言をためらう必要はない。断固としてウクライナ侵略を非難する。首都キエフへの攻撃を停止し、今すぐに交渉のテーブルに着くべきだ。南京陥落にぬか喜びをして戦争を泥沼化させ、最後は痛い目に遭った日本から、親愛なるロシアへの心からの忠告である。