21世紀は「人権の世紀」だと言われていたが、帝国主義という怪物が跋扈した「戦争の世紀」20世紀に逆戻りしたかのような、ロシアによるウクライナ侵略戦争である。ウクライナを一方的に攻撃しておきながら、中立化を憲法に明記せよだとか軍事バランスを崩す兵器を持つなとか要求している。
他国に対するリスペクトのかけらもない覇権主義そのものである。戦争によって家族や財産が奪われ、力によって国家がねじ伏せられようとしている。今まさに、人権や愛国心の中核を成す誇りがズタズタに切り裂かれているのだ。
鳥取市佐治町加瀬木の鳥取市佐治町総合支所に「黎明の庭」という枯山水庭園がある。
作庭は昭和の小堀遠州と呼ばれた中根金作、足立美術館にお庭も手掛けた造園家である。このような名庭が無料で鑑賞できるとは、ありがたいことこの上ない。碑文を読んでみよう。
この黎明の庭は、佐治村の村制施行八十周年を記念し、銘石佐治川石の保存と展示を目的として造られたものである。
園路左右の一つ一つによって構成された石組群は、佐治川の過去から未来に続く村の伝統や文化の軌跡と、大海原の中の新たな国の始まり、黎明期を迎えた村の繁栄と言祝(寿)を象徴的に表現し、二十一世紀に向けて村民の新たな決意を示す庭園でもある。
平成三年十月 佐治村
佐治川石とは三郡変成岩の一つで、ざっくり言うと、古生代(三億年前)の海底火山噴出物が堆積し、中生代(二億年前)に高い圧力を受けて変成した岩石である。ちなみに三郡とは、福岡県の山の名称だ。
確かに変化に富んで、見れど飽かぬかもである。愛石家垂涎の銘石だろう。日本三大銘石の一つとされることが多い。他は佐渡の赤玉石、神戸の本御影石、滋賀の瀬田川石、北海道の神居古潭石など諸説ある。
平成三年は1991年、ソビエト連邦が崩壊し、冷戦が終結した年である。やがて世界の政治体制はリベラルな民主主義に収斂し、大国の戦争なんぞ過去のものとなるだろう。ある意味、歴史は終わったのだと考えられた。
平和という人権保障の基盤が確立したのだから、来たる21世紀を「人権の世紀」にしようという機運が高まったのである。碑文に人権という言葉は出て来ないが、そんな新たな時代を迎えるという高揚感が感じられよう。
ところが現下のウクライナ侵攻は、第二次世界大戦以来だとも、まるで19世紀だとも、さらには中世だとも言われている。プーチン露大統領の個人的な資質に問題があるのか、欧米がロシアの思いを汲んだ戦略的な友好関係を築かなかったことに問題があるのか。
その点、安倍元首相はプーチン氏を相手に戦略的な友好関係を築く努力をした。接待漬けでご機嫌取りをして、領土返還につなげようとしたのだが、情で領土を返すほど独裁者は甘くなかった。
事ここに至っては過去の責任は問うまい。安倍氏は個人的な信頼関係を信じて、もう一度呼びかけるべきだろう。「ウラジーミル、君と僕は同じ夢を見ている。それは、いつの日か、ウクライナの森の中で、君と僕とゼレンスキーが、兄弟として同じテーブルにつくという夢である。ゴールまで、三人の力で駆けて駆けて駆け抜けよう。」
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。