岡山平野南部の干拓地に立てば、かつての「吉備の穴海」がイメージできる。周りが山に囲まれているのだ。南の金甲山、北の金山はすぐに視認できるだろう。その金山の右側にも同じくらい高い山がある。本宮高倉(ほんぐうたかくら)山だ。気になるので登ってみよう。
岡山市北区牟佐と赤磐市西中の境に本宮高倉山があり、頂上に三等三角点「本宮山」が置かれている。標高は457.85mである。
この日、私は太戸の滝から高蔵神社を経由して長い道のりを登ってきた。車でもその気があれば来れるようだが、見かけたのはみな、歩く人だった。頂上の南側では中学生くらいの男子グループが眺めを楽しんでいる。今どき、殊勝な心掛けで感心なことだ。確かに南側は、岡山平野を一望できる素晴らしい眺望である。
頂上に磐座らしき岩がある。カメラは瀬戸内市の方面を向いている。駐車場付近にある説明板は合併後に修正されているが、かつては次のように記されていたようだ。
本宮高倉山祭祀遺跡
山陽町西中
現在は高倉山中腹に鎮座する高倉神社は、もとはこの山の頂付近にあったといわれています。高倉神社は古代の上道氏が祀った神社で、祭神は高倉児尊です。山頂に立つと、快晴時には南は瀬戸内の海が輝き、北は鳥取県大山が遠く望めます。
頂上周辺には高倉神社のご神体であった岩が群をなし、国見岳系の山岳信仰の聖地であったものと考えられています。
現在、赤磐ライオンズクラブにより、部分的に公園として整備されています。
平成十五年三月
山陽町教育委員会
高蔵神社はもと山頂にあったという。上道氏の勢力は平野部から山頂にまで至っていたのだ。国見岳系の山岳信仰とはおそらく磐座のことだろう。ここに立てば信仰心も湧いてこよう。神の視点を得られるのだから。
さらに凄いことが分かった。いま目にしている磐座は、古生代石炭紀からペルム紀にかけてできた海底岩石で、深海底の岩盤をつくっていた海洋プレートだったというのだ。具体的には斑糲岩、玄武岩、蛇紋岩など黒っぽい岩石である。
専門的には「夜久野オフィオライト」と呼ばれ、海洋プレートが衝上して地表に現れた岩体ということになる。ざっくり言えば、3億年前に海の底にあった岩である。おそらくはペルム紀末に95~96%が死に絶えたという大量絶滅事件も経験しているのではないか。この時、海洋深部の無酸素化が発生したという。「Oceanic Anoxic Event」海洋無酸素事変である。
地球史上最大とされる大量絶滅を経験したこの岩は、私たちに何を語りかけているのだろう。地球温暖化による生計崩壊リスクか。残り4~5%の生物種から私たちの祖先が出現したという奇跡の事実か。気がつけば海底が山上となっていたのである。伝えたかったのは、永遠なんて何一つないという真理なのかもしれない。
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