「けしからん坊主だ。一刀両断にしてやる」 そう叫んだ武士は二人の家来を連れて一遍を追った。自分のいぬ間に妻が一遍に帰依して出家していたのである。備前福岡でようやく追いつき,武士はまさに刀を抜かんとしている。教科書にも掲載される一遍聖絵巻四のあまりにも有名な場面である。
瀬戸内市長船町福岡の恵美須宮境内に「福岡の市跡一遍上人巡錫の地」という石碑がある。
上人から言葉を掛けられた件の武士は,抜きかけた刀を鞘に収めたばかりか,その場で信者となり出家したという。一遍マジックである。
もっとも教科書としては,上人と武士の周囲に描かれている福岡市の様子を,定期市の具体例として紹介するのがねらいだ。ここを訪れた2月28日(日)は「中世の商都『福岡の市』を再び」というキャッチフレーズのもと,第48回備前福岡の市というイベントが開かれていた。毎月第4日曜日の定期市ということだ。この辺りには「茶屋市場」という古名が残っている。
聖絵には,備前焼の大甕,布,履物などが描かれている。さらには,紐を通した銭束をもっているものがおり,貨幣経済の進展がうかがえる。歴史に由来するイベントの雰囲気を楽しみつつ団子汁の無料接待をいただいた。切らしていた味噌を量り売りで買って貨幣経済の一層の発展にも少々貢献した。
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