桜の樹の下には…,梶井基次郎には解った。あの桜の美しさは尋常ではない。昼に見上げると眩しいほどに輝き,夜にライトアップされると妖しいまでに浮かび上がる。有名な場所だけでなく,街の公園,村の鎮守など,そこここで宴会が開かれている。桜の秘密に気付いた基次郎は文章をこう締めくくった。
“今こそ俺は、あの桜の樹の下で酒宴をひらいている村人たちと同じ権利で、花見の酒が呑めそうな気がする。”
瀬戸内市長船町服部に「丸山城跡」がある。写真では桜を愛でているが,背後の山が城跡である。この日も地元の方が酒宴をひらいていた。
標高20m足らずの小さな丘であるが,頂上には平坦な広場があり,稲荷の祠が祀られている。
ここは『源平盛衰記』弥巻第四十一の「盛綱渡藤戸児島合戦附海佐介渡海事」に登場する海佐介(あまのさすけ)の居城だという。近くには彼の乗った馬の墓だとされた古墳がある。また,『邑久郡史』には「往古丸山に城あり。城主天野左亮(あまのさすけ)という。山名,備前を領したるときという」ともある。
源平の世か室町か,本当に城跡なのか,伝説と史実が入り混じった空間である。確かなのは,この城跡が歴史公園として平成3年10月に「ふるさと創生資金」の助成を受け丸山地区の町内会によって整備されたことである。バラまきと笑ってはいけない。国民に夢を与える政策とはこういうものだ。少なくとも私には白昼夢のような春の日であった。
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