直線より曲線が安定している。曲がっているのが丈夫とは,橋の話である。アーチ橋は古代ローマの水道橋など,古くから安定した構造であることが知られていた。さらには,その曲線美が街の景観を飾る効果もある。特に大阪は八百八橋,橋を渡らずして旅はできず,橋を語らずして紀行文は書けない。
国道1号線で大阪市北区天満橋1丁目と都島区中野町1丁目を結ぶのが「桜宮橋」である。隣に安藤忠雄設計の新桜宮橋がスマートに架かっているが,古い方はリベットの文様が美しくも重厚である。歩道が拡幅されたおかげで橋梁の構造美を鑑賞しやすくなっている。
昭和5年に汽車製造株式会社によって完成したことが銘板から分かる。汽車製造㈱は,その名の通り汽車の製造が中心だが,鉄道橋や道路橋でもいい仕事をしている。八高線多摩川橋梁は昭和6年の架橋だが現役である。会社は昭和47年に解散し,その伝統は川崎重工業に受け継がれている。
この橋は戦前に,アーチ橋としては日本最長の支間長(104m)を誇っていたという。「銀橋」と呼ばれるように都会の景観に相応しいデザインで,歴史的でありながら現代的に感じる。設計者は武田五一という国会議事堂の建設にも関わった有名な建築家である。
武田五一の作品を地方でも見つけた。岡山市北区出石町1丁目に「鶴見橋」が架かっている。
日本三名園・後楽園の正面に架かる,この橋の高欄の部分が,武田五一による意匠設計だ。これも昭和5年,陸軍特別大演習に際して,橋が架け替えられた時の作品である。彼の仕事の幅の広さに感服するのみである。
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