私は間違っていた。“鉢かつぎ姫”だと思っていたら「鉢かづき姫」だった。鉢を頭でかついでいるではないか。そうではなかった。頭にかぶることを「かづく」というのだった。
寝屋川市寝屋に「伝・寝屋長者屋敷跡」がある。説明板があるのでそれと分かるが、見た目には普通の公園だ。前を通るのは「山根街道」という古くからの道である。
昔話は「むかしむかし、あるところに」のように時間と場所を特定しないのが通例なのに対して、伝説には場所がある。「桃太郎」にはゆかりの地が、岡山、香川、愛知、奈良などいくつもある。昔話を伝説に変化させなくてもよさそうだが、観光キャンペーンにもなれば地域のシンボルにもなるし、主人公はゆるキャラにも使える。
「鉢かづき姫」のゆかりの地は寝屋川市寝屋である。寝屋川の「寝屋」は、ここにあったという屋敷に由来するそうだ。寝屋川市立中央図書館『寝屋川の民話』所収「鉢かづき」に沿って物語を紹介しよう。
この屋敷に住んでいたのは「寝屋長者」藤原実高。子どもがなかなかできなかったが、大和国初瀬寺(長谷寺)の観音様にお祈りをしたおかげで女の子をさずかった。美しく成長した姫は14才のとき、母親を病気で失ってしまう。その母の最期…
母上は涙をぬぐって、そばの手箱からものを取り出し、何を入れられたのやら重そうな包みを姫の髪の上にのせ、肩がかくれるほどの立派な鉢をかぶせられて、母上は一首の歌を詠んだ。
さしも草ふかくぞたのむ観世音 誓いのまゝにいただかせつつ
と言って、そのまま横になり西の方に向い念仏を高らかに唱えられた。
実高が新しく迎えた母親は、鉢をかぶった姫につらくあたり、悲観した姫は淀川に身を投げてしまう。しかし、鉢の力で首から上は水につからず助かり、通りかかった山陰三位中将に拾われ、屋敷で風呂焚きとして働くこととなる。中将の息子、宰相は慣れない仕事をしている姫に優しく声をかけ、二人は愛し合うようになる。しかし、周囲に反対された二人は屋敷を出て行こうとする。
夜が明けないうちにと心を決め、二人とも御両親の居間の方へ向って、目の前にいらっしゃるように手をついて、お許しくださいと頭をさげておじぎをすると、とたんに、姫のかづいた鉢がばったりと前に落ちた。
美しい姫は「嫁くらべ」に勝ち、二人は幸せな暮らしを始める。さらには、落ちぶれた父、実高との再会も果たすことができた。めでたしめでたし、ということである。観音の霊験譚に始まり昔話の典型例である継子いじめ譚、貴種流離譚が展開し、シンデレラよろしく貴公子と幸せになるわけだ。
この苦労の後に幸せをつかんだ初瀬姫は、今、ゆるキャラ「はちかづきちゃん」として地域に貢献しているというから頭が下がる。かわいくてしかもけっこうゆるそうな雰囲気のただよう、愛すべきキャラクターである。
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