「宮内庁御用達」はその店のステータスを表しており上品さを感じるが、作家がお好みであったというのも味わい深い。皇室の方々はここの店が好きだと明言することは少なかろうが、作家は好物をはっきりとしかも情緒豊かに表現することができる。私たちも作家に感情移入しながらお菓子をいただこう。すると美味しさはさらに増すのである。
下田市三丁目に創業大正十一年のお菓子の老舗「日新堂」がある。
この店に三島由紀夫がよく来てマドレーヌを買って行ったそうだ。日新堂でいただいた案内チラシを読んでみよう。
故三島由紀夫氏は昭和三十九年から例年、下田湾の青い海が広がる美しい丘に建つ下田東急ホテルに宿泊し、夏のバカンスを家族とともに過ごしました。親子水入らずの海水浴や友人との語らい、そして入り江の散策を楽しみながら執筆活動に勤しみ、下田を題材にした短編「月澹荘綺譚」や、遺作となった「豊饒の海」「天人五衰」などの名作を完成させています。三島氏は、下田の港町の風情と下田太鼓祭りの笛の音に深い愛着をもち、町を歩き、商店街の人々とも気さくに交流する心優しい人柄でした。
日新堂菓子店は三島氏の御贔屓の店であり、昭和四十五年の最後の夏までご愛用いただきました。特に「日本一のマドレーヌですよ」と絶賛されたマドレーヌとレモンケーキがお気に入りでした。見知らぬお客様にも声をかけて勧めてくださる庶民的で晴れやかな笑顔の三島氏の姿は、私どもの心に永遠に残っております。
昭和三十年の発売以来、変わらぬパッケージと味を保ちながら三島文学の多くのファンをはじめ、全国のお客様にご愛顧いただいております。
日新堂のマドレーヌは、下田の海と情緒、気取らない街角を心から愛した三島由紀夫氏の思い出がこもったお菓子です。
そこで私も買ったのだが、写す前に早速食べてしまったのでパッケージだけの写真である。三島氏のおかげというか、とにかく美味しい。僭越ながら私としてもおすすめである。
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