映画『武士の家計簿』で堺雅人が好演するのは猪山直之、その父が中村雅俊演じる猪山信之、猪山家7代目である。映画で信之が何度も自慢げに話すのがこの門だ。
文京区本郷七丁目に「赤門」がある。「赤門をくぐる」の比喩のように東大の象徴として有名だ。
私は言わずもがな比喩ではなくくぐっただけだが、国の重要文化財と聞いて余計にありがたみを感じた。誰でも入れる狭き門である。正式には「旧加賀屋敷御守殿門」という。文京区教育委員会『ぶんきょうの史跡めぐり』を読んでみよう。
将軍の娘を迎えるときの門で文政十年(一八二七)の建立。『青標紙』書に「往古加賀家越後家稲葉家等作之」とある。同年十一代将軍家斉の娘溶(よう)姫は、前田家十三代斉泰(なりやす)に嫁入りした。溶姫満十四歳であった。大御門の黒門に対して赤門と呼ばれ、赤門は焼けたら再建を許されず、加賀鳶(消防隊)が守護した。
めでたさわ松から梅へ姫小松 (古川柳)
加賀門をも一つつける御注文 (古川柳)
磯田道史『武士の家計簿』(新潮新書)によると、猪山信之は「溶姫君様御住居付御勘定役」を仰せ付かっていたということだ。将軍のお姫様に豪壮な門、信之の苦労が偲ばれる。
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