即身仏に興味があって『日本ミイラの研究』(平凡社)とか『日本のミイラ仏をたずねて』(晶文社)という本を読んだことがある。暗い石室の中で何を考えていたのか、すでに心身脱落の境地に至っていたのか、途中で「やめときゃよかった」などと思わなかったのか、ついつい至らぬ自分に重ね合わせて考えてしまう。無謀ともともいえるこの究極の修行に対して、私たちは信仰で応えるほかはない。信仰によってそれは崇高な行為となるのだ。
千葉県安房郡白浜町滝口(現在は南房総市白浜町滝口)に「西春法師の入定塚」がある。町指定文化財(現在は市指定文化財)となっている。
西春法師とはどのようなお方なのか。現地の説明板を読んでみよう。
「西春法師入定塚」
西春法師は白浜町原田に生る。本名武田長治十六才の時魚夫となり空中を飛び或いは海上を歩くなど不思議な術を持っていた。
後仏門に入り諸国行脚高野山奥州等にて修行二十九才で帰国三十一才寛文七年(一六六七年)三月十八日に不食行三百日を終え土中の石室に入り入定の行に入った。
「土中より鉦の音がきこえなくなったら三年後掘り出し堂内に安置してほしい」と言い残したが村人は恐れて手を触れることなく厚い信仰に守られ今日に到っている。
昭和五十七年一月三十日 教育委員会
恐れて手を触れなかった村人の気持ちは分かる気がする。畏れていたのかもしれないし、本当に恐かったのかもしれない。即身仏ミイラは全国に18体あるというが、掘り出されていればもう一つ増えていた。しかし、人びとに篤く信仰され伝説も生成している今の形が一番よいのだと思う。
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